ミロヴァン・ジラス

ミロヴァン・ジラス：革命家から反体制派へ

ミロヴァン・ジラス（1911年6月4日 - 1995年4月20日）は、ユーゴスラビアの政治家、理論家、作家であり、ユーゴスラビア共産党の幹部として、第二次世界大戦中のパルチザン運動、そして戦後の国家建設において重要な役割を果たしました。しかし、後に民主社会主義者として体制を批判し、反体制派として投獄されながらも、その思想と著作は東西両陣営に大きな影響を与えました。

生い立ちと革命への参加

モンテネグロの寒村で生まれたジラスは、ベオグラード大学在学中に共産党に入党。政治犯として投獄された後、党内で頭角を現し、中央委員、政治局員と昇進しました。第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによるユーゴスラビア侵攻と解体に対し、ジラスはヨシップ・ブロズ・ティトーとともにパルチザン抵抗運動を組織し、ゲリラ戦を指揮しました。

モンテネグロにおける蜂起では、国家統一のイデオロギーを広め、解放区を拡大する上で重要な役割を果たしました。しかし、戦術を巡る対立から一時的に司令官を解任され、党の機関紙『ボルバ』の編集者となります。

内戦と国家建設

1942年、パルチザンとチェトニックの間で内戦が勃発すると、ジラスはモンテネグロに戻り、党の指導部を再編します。1944年にはソ連を訪問し、スターリンらと会談。ベオグラード解放作戦にも参加し、戦後のユーゴスラビア連邦人民共和国では副大統領に選出されました。しかし、モスクワの強い影響下でユーゴスラビアを動かそうとするスターリンの試みに批判的でした。ユーゴスラビアはコミンフォルムから離脱し、独自の社会主義政策を追求し始めました。

反体制派への転身

ジラスは、党のプロパガンダ責任者として、新たなジャーナル『Nova Misao』を創刊。自由な思想を帯びた記事を掲載し、自主管理社会主義を推進しました。しかし、次第に体制批判を強め、1953年10月から機関紙『ボルバ』に発表した論説で、特権的な地位を享受する新たな支配階級の存在を指摘。このことが党指導部の反発を招き、1954年に中央委員会から追放され、すべての政治的機能を剥奪されました。

その後もジラスは批判的な言論活動を続け、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューでユーゴスラビアの状況を「全体主義」と批判。新たな民主社会主義政党の結成を訴え、逮捕、投獄されました。ハンガリー動乱に対するユーゴスラビアの姿勢を批判したことでも再逮捕され、より長期の懲役刑を宣告されます。

獄中で、ジラスは代表作『新しい階級：共産主義制度の分析』を執筆。この著書は、ソ連や東欧の共産主義体制が平等主義とは名ばかりで、特権的な官僚層による「新しい階級」が確立されていることを暴露し、世界的な反響を呼びました。ジラスはその後も、獄中で数々の著作を発表し、反体制派としての姿勢を貫きました。

ユーゴスラビアとソ連の崩壊の予見

ジラスは1966年に恩赦により釈放。1980年代から1990年代にかけて、ユーゴスラビアの崩壊と民族紛争の激化を予測し、ミロシェヴィッチ政権を批判しました。彼は、ユーゴスラビアがティトーの死後、民族主義的な方向へ進み、崩壊すると予見。ソ連の崩壊も予測しました。

セルビアとモンテネグロのアイデンティティ

ジラスは、モンテネグロ民族独立の父と呼ばれることもありますが、自身はモンテネグロ人とセルビア人の関連性を認めていました。晩年には自らをセルビア人と評価し、モンテネグロの独立した民族的アイデンティティの存在を否定する著作も発表しています。

ミロヴァン・ジラスは、その生涯を通じて、革命家、政治家、作家、そして反体制派として、激動の20世紀を駆け抜けました。彼の思想と著作は、社会主義の理想と現実、権力構造、そして人間の自由について、私たちに深く考えさせるものであり、今なお読み継がれています。

もう一度検索