ミンスク議定書

ミンスク議定書とは

ミンスク議定書は、2014年 9月5日にウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の間で調印された、ドンバス地域における戦闘（ドンバス戦争）の停止に関する合意文書です。この文書は、欧州安全保障協力機構（OSCE）の援助の下、ベラルーシのミンスクで調印されました。

議定書調印までの経緯

議定書は、ウクライナ、ロシア、OSCEの代表で構成される3カ国連絡グループによって作成されました。このグループは、東西ウクライナ間の紛争解決と対話を促進するために2014年6月に設置されました。その後、ドネツクとルガンスクからの離脱勢力の非公式代表が加わり、複数回の会議を経て、9月5日に議定書が調印されました。調印された議定書の詳細内容は、ポロシェンコ大統領が同年6月20日に発表した「15か条の講和案」と多くの類似点がありました。

署名した代表者

OSCE代表: ハイジ・タリアヴィーニ（スイス外交官）
ウクライナ代表: レオニード・クチマ（元ウクライナ大統領）
ロシア代表: ミハイル・ズラボフ（在ウクライナ・ロシア大使）
ドネツク代表: アレクサンドル・ザハルチェンコ（共和国閣僚評議会議長）
ルガンスク代表: イゴール・プロトニツキ（共和国首長代行）

議定書の内容

ミンスク議定書は、以下の12項目から構成されています。

1. 双方の即時停戦の保証
2. OSCEによる停戦の確認と監視の保証
3. ウクライナ法「ドネツク州及びルガンスク州の特定地域の自治についての臨時令」の導入に伴う地方分権
4. ウクライナとロシアの国境地帯にセキュリティゾーンを設置し、OSCEによる恒久的監視と検証の確保
5. 全ての捕虜及び不法に拘留されている人物の解放
6. ドネツク州及びルガンスク州の一部地域で発生した出来事に関連する人物の刑事訴追と刑罰を妨げる法律
7. 包括的な国内での対話の継続
8. ドンバスにおける人道状況を改善させる手段の実施
9. ウクライナ法「ドネツク州及びルガンスク州の特定地域の自治についての臨時令」に従い、早期に選挙を実施
10. 不法な武装集団、軍事装備、兵士、傭兵をウクライナ領域から撤退
11. ドンバス地域における経済回復と復興プログラムの適用
12. 協議参加者への個人の安全提供

議定書後の覚書

ミンスク議定書調印後、双方の勢力が停戦規定をたびたび違反したため、2014年9月19日に議定書の履行を明確化する覚書が調印されました。覚書では以下の点が合意されました。

両国国境線から15kmの範囲から重火器を撤去し、30kmの緩衝地帯を設ける
攻撃行動の禁止
セキュリティゾーンでの軍用機による戦闘の禁止
全ての外国人傭兵を紛争地帯から撤収させる
ミンスク議定書の履行を監視するOSCEの作戦開始

議定書の影響と失敗

覚書発表後も、第二次ドネツク空港の戦いが勃発するなど、停戦違反が続きました。2014年10月には、ドネツクの首相であったアレクサンドル・ザハルチェンコが、ウクライナ軍が7月の攻勢で占領した地域を奪還すると発言しましたが、後に「平和的手段」で獲得すると訂正しました。また、同年11月には、ドネツクとルガンスクで選挙が強行され、OSCEはこれをミンスク議定書の精神に反すると批判しました。

2015年1月までにミンスク議定書による停戦は完全に崩壊。ドネツク国際空港での分離主義者の勝利を受け、ドネツク側は「ミンスク覚書はもはや斟酌されない」と宣言し、停戦協議を打ち切りました。

ミンスク2へ

ミンスク議定書の失敗を受け、ドイツとフランスの仲介により、2015年2月12日に新たな一連の措置「ミンスク2」が合意されました。ミンスク2の内容は、ウクライナと分離独立派双方の武器使用の即時停止、不法武装勢力の撤退、ドンバス地域の特別な地位に関する法律の採択、選挙の実施などです。

しかし、ミンスク2の停戦発効後もデバルツェヴェでの戦闘が継続し、ロイターは停戦を「死産」と表現しました。その後も、2021年にはウクライナ軍がトルコ製ドローンで攻撃、2022年にはロシアがドネツク・ルガンスク両人民共和国の独立を承認するなど、ミンスク合意は履行されない状況が続きました。

メルケル前首相の発言

2022年12月、アンゲラ・メルケル前ドイツ首相は、2014年のミンスク合意はウクライナに時間を与えるための試みだったと述べました。彼女は、ウクライナがこの時間を利用して軍事力を強化し、西側諸国からの支援を受けることができたと指摘しました。これにより、ミンスク合意が事実上、時間稼ぎのためのものだったことが示唆されました。

まとめ

ミンスク議定書とミンスク2は、ドンバス地域における紛争解決を目指した重要な合意でしたが、結果として履行されることなく、紛争は泥沼化しました。これらの合意は、その後のロシアによるウクライナ侵攻へと繋がる要因の一つになったと言えるでしょう。

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