欧州安全保障協力機構

欧州安全保障協力機構（OSCE）の概要

欧州安全保障協力機構（OSCE）は、ヨーロッパ、北米、中央アジアにまたがる57カ国が加盟する、世界最大規模の政府間組織です。1992年以降、オーストリアのウィーンに事務局を置いています。OSCEは、加盟国間の対立を解消し、信頼醸成を図ることを目的として、協調的安全保障の枠組みの中で活動しています。

OSCEの活動は、早期警戒、紛争予防、危機管理、そして紛争後の復興という4つの柱を軸に展開されています。近年、経済・環境問題、人権問題、人道的危機なども安全保障を脅かす要因として認識されており、OSCEは安全保障を包括的に捉え、軍事面のみならず、幅広い分野で活動しています。これは「包括的安全保障」アプローチとして知られています。

特に、民主主義と法の支配の確立は、OSCEの活動において極めて重要視されています。そのため、選挙監視活動はOSCEの主要な活動の一つとなっています。また、アメリカの「ヘルシンキ委員会」の影響もあり、OSCE議員会議が重要な役割を果たしています。

OSCEは、平和維持活動を行うための常設軍隊を保有していません。北大西洋条約機構（NATO）や欧州連合（EU）とは異なる点です。OSCEは、信頼醸成措置（CSBM）などの安全保障分野での活動に加え、人権や民主主義といった人的側面（human dimension）に関する活動にも力を入れています。かつては、民主制度・人権事務所（ODIHR）が主催する「人的側面履行会議」（HDIM）が毎年ワルシャワで開催されていましたが、2018年を最後に開催されていません。

OSCEの歴史：CSCEからOSCEへ

OSCEの起源は、1970年代初頭の冷戦緩和期に設立された全欧安全保障協力会議（CSCE）に遡ります。CSCEは、東西間の対話と交渉のための多国間フォーラムとして機能しました。1975年8月1日には「ヘルシンキ宣言」を採択し、国家主権の尊重、武力不行使、国境の不可侵など、重要な原則に関する合意がなされました。

1989年のベルリンの壁崩壊と東欧諸国の民主化、そして1990年のマルタ会談における冷戦終結宣言を受け、CSCEの役割は変化しました。1990年11月にはパリ首脳会議が開催され、「パリ憲章」が採択されました。この憲章は、法の支配と表現の自由を尊重する民主主義を重視し、CSCEの新たな役割と組織化を規定しました。

1994年12月にはブダペスト首脳会議で、CSCEから欧州安全保障協力機構（OSCE）への改称が決定され、より恒久的な国際機構としての活動が始まりました。

OSCEの組織と制度

OSCEの意思決定機関は、首脳会議、OSCE閣僚理事会、常設理事会などがあります。首脳会議は必要に応じて開催され、OSCEの政治的な方向性を決定します。OSCE閣僚理事会は、参加国の外務大臣から構成され、毎年12月に開催されます。常設理事会はウィーンで毎週開催され、日常的な交渉と意思決定を行います。安全保障協力フォーラムは、欧州の軍事的安全保障と安定性の向上に努めています。

OSCEには、民主制度・人権事務所（ODIHR）、メディアの自由に関するOSCE代表、少数民族高等弁務官（HCNM）など、いくつかの重要な実行機関があります。ODIHRは選挙監視活動や民主化支援などを行い、「人的側面履行会議」(HDIM)を開催していました。メディアの自由に関するOSCE代表は、表現の自由の侵害を監視します。少数民族高等弁務官は、民族的緊張の早期解決に取り組んでいます。OSCEミンスク・グループは、ナゴルノ・カラバフ紛争の平和的解決を目指して活動しています。

さらに、OSCE議員会議、プラハ文書センターなどもOSCEの活動を支えています。

OSCEの現地活動

OSCEのスタッフと資金の大部分は、東南ヨーロッパ、東ヨーロッパ、南コーカサス、中央アジアなどにおける現地活動に充てられています。これらの現地活動は、参加国のコンセンサスとホスト国の同意に基づいて設立され、法執行、少数民族の権利、法の支配、メディアの自由などの分野で活動しています。OSCEの紛争予防センター（CPC）は、現地活動の設立、再編、閉鎖などを計画する役割を担っています。

現在、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、モンテネグロ、セルビア、北マケドニア、モルドバなど、多くの地域でOSCEの現地活動が展開されています。過去には、ジョージア、エストニア、ラトビア、ウクライナなどでも活動が行われていましたが、現在は終了しています。

OSCEの議長国

OSCEの議長国は毎年1カ国が務め、OSCEの活動運営と対外的な代表活動において中心的な役割を果たします。議長国はOSCE機関の活動を調整し、紛争予防、危機管理、紛争後の復興に関する活動を監督します。議長国、前任国、次期議長の3カ国は「OSCEトロイカ」を構成します。

OSCEの参加国と協力国

OSCEには、ヨーロッパ、独立国家共同体、モンゴル、北アメリカなどから57カ国が参加しています。また、日本、韓国、オーストラリアなどの太平洋地域の国々と、アルジェリア、エジプトなど地中海地域の国々は、OSCEと協力関係にあります。

OSCEに関する研究

欧米では、冷戦期からCSCE/OSCEに関する研究が盛んであり、研究ネットワークや資料の整理が進んでいます。OSCE Networkは、参加国だけでなく、日本などのパートナー諸国にも広がっています。ハンブルク大学平和研究・安全保障政策研究所(IFSH)内にはCenter of the OSCE Research (CORE)が設置されています。プラハ文書センターでは現地研究員制度があります。

2022年のウクライナ侵攻とOSCE

2022年のウクライナ侵攻は、OSCEの活動に大きな影響を与えました。ウクライナとロシアは共にOSCE加盟国であるため、OSCEが両国の調停役として期待されましたが、ロシアのOSCEへの批判が強まる中で、OSCE内部の東西分断が顕著になってきました。この対立により、OSCEの安全保障規範は2010年代以降ほとんど深化していません。ウクライナ特別監視団(SMM)は撤退を余儀なくされ、キーウのOSCE事務所も閉鎖されました。2022年のOSCE議長国はポーランドでしたが、ロシア外相のポーランド入国拒否など、東西対立が鮮明になりました。

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