ミンディ・エイベア

アメリカ合衆国出身のスムースジャズ・サクソフォン奏者、ミンディ・エイベア（Mindi Abair）は、1969年 5月23日にこの世に生を受けました。日本ではその名が「ミンディ」として紹介されることも多く、親しみやすい存在として知られています。彼女の音楽は、洗練されたジャズの感性と、ポップミュージックの持つキャッチーさを巧みに融合させたクロスオーバー的なスタイルが最大の魅力です。

ミンディは音楽的な素養が豊かな家庭環境で育ちました。オペラ歌手だった祖母と、プロのサクソフォン奏者である父から受け継いだ音楽への情熱は、彼女のキャリアの礎となります。早くから楽器に親しみ、5歳でキーボード、そして8歳になる頃にはサクソフォンを手にして音楽の道を歩み始めました。学生時代には、高校のマーチングバンドでサックスを担当するなど、実践的な経験を積みました。

その後、ジャズ教育の名門として知られるバークリー音楽大学に進学。そこではジャズはもちろんのこと、ロックやR&Bなど、様々なジャンルの音楽理論と演奏技術を貪欲に学びました。この多様な学びが、後の彼女の幅広い音楽性の基盤を築くことになります。

大学卒業後、ミンディは活気あふれるロサンゼルスへと活動の拠点を移しました。当初は自身のバンドを率いてライブ活動を行っていましたが、やがてギタリストのジョナサン・バトラーとの出会いがキャリアの転機となります。彼のバンドへの参加をきっかけに、著名なアーティストたちのバックミュージシャンとして活躍する機会が増えました。アダム・サンドラーやバックストリート・ボーイズ、マンディ・ムーアといった人気アーティストたちのツアーやレコーディングにサックス奏者として参加。こうしたサポート活動を通じて、プロの現場での経験を積みながら、自身の音楽スタイルを深く追求し、独自性を確立していきました。

ソロアーティストとしてのキャリアは、2000年に自主制作アルバム『Always and Never the Same』を発表したことから本格化します。この作品が認められ、間もなく名門GRPレコードとの契約へと繋がりました。そして、2003年にGRPからのメジャーデビューアルバム『イット・ジャスト・ハプンズ・ザット・ウェイ』をリリース。このタイトルは、彼女が影響を受けたジャズ界のレジェンド、キャノンボール・アダレイのライブアルバムにインスパイアされたものです。

デビュー後も精力的な創作活動を続け、2004年には『カム・アズ・ユー・アー』を、2006年にはケブ・モなどのゲストを迎えた『ライフレス・オーディナリー』を発表し、スムースジャズ界での地位を確固たるものにしました。その後も様々なアーティストとの共演を経て、2008年にはアルバム『スターズ』をリリースするなど、コンスタントに質の高い作品を世に送り出しています。近年は「Mindi Abair & The Boneshakers」名義での活動も積極的に行っており、よりロックやブルース寄りのサウンドも展開しています。

彼女の音楽性は、幼少期に親しんだ全米トップ40チャートのようなポップスの要素が色濃く反映されており、それがジャズの洗練さと融合することで、多くのリスナーにとって親しみやすく、かつ深みのあるサウンドを生み出しています。アルトサックスとソプラノサックスを中心に演奏しますが、フルートやキーボードも巧みに操り、その表現の幅を広げています。また、楽器演奏だけでなく、ボーカリストとしての魅力も持ち合わせており、自ら歌う楽曲も発表しています。女性サックス奏者としての力量の高さから、同じく人気のキャンディ・ダルファーと並び称されることも少なくありません。

音楽演奏家としてだけでなく、多方面でその才能を発揮しています。2008年からは、かつてトランペッターのクリス・ボッティがホストを務めていた人気のチルアウト系ラジオ番組のパーソナリティを引き継ぎ、『Chill with Mindi Abair』として2015年まで番組を進行しました。その親しみやすい語り口で、新たなファン層を獲得しました。さらに、音楽業界の発展にも積極的に貢献しており、グラミー賞を主催する全米録音芸術科学アカデミー（NARAS）のロサンゼルス支部において、2009年から2012年まで評議員長を務め、2013年には支部長に就任するなど、業界内でのリーダーシップも発揮しています。

ミンディ・エイベアは、その卓越したサックスプレイ、ジャンルを超えた音楽性、そして多岐にわたる活動を通じて、スムースジャズシーンにおいて独自の存在感を放ち続けています。彼女の探求心は留まることを知らず、常に新しいサウンド、新しい表現方法を追求しており、今後の活動にも大きな期待が寄せられています。

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