ムシトリスミレ

ムシトリスミレ（虫取菫）とは

ムシトリスミレ（学名: Pinguicula vulgaris）は、タヌキモ科ムシトリスミレ属に分類される食虫植物です。スミレに似たかわいらしい花を咲かせるのが特徴です。

特徴

生息地

北海道から四国にかけての亜高山帯から高山帯の、湿り気のある岩場や草地に生息しています。アルカリ性の土壌でも生育できるため、石灰岩地帯や蛇紋岩地帯でも見られます。

形態

葉: 根元から数枚の葉をロゼット状に広げます。葉は長さ3～5cm程度の長楕円形で、葉柄はありません。葉の表面には、先端に粘液のついた腺毛が密生しており、これで虫を捕らえます。
花: 花期は6～8月で、高さ5～15cmの花茎を伸ばします。花茎は次第に曲がり、先端が下を向いた状態で横向きに花を咲かせます。花は唇形花で、紫色をしており、後方には細長い距があります。花の色は淡紫色から濃紫色まで幅があり、白い花を咲かせる変種（シロバナムシトリスミレ）も存在します。スミレに似た花を咲かせますが、花弁が合着しているため、スミレとは遠縁です。

和名の由来

明治時代初期に、イギリス人によって発見されたムシトリスミレは、当初「ミヤマミミカキグサ」や「ネバリバサウ（粘り葉草）」と呼ばれていました。その後、植物学者の矢田部良吉博士が戸隠山で採集した際に、「ムシトリスミレ」と命名したものが一般的に使われるようになりました。

分類

ムシトリスミレ属は、オーストラリアと南極を除く各大陸に約80種が存在します。冷帯の草原や熱帯の高山など、さまざまな環境に適応しており、特にメキシコやヨーロッパに多くの種が見られます。日本には、ムシトリスミレの他に固有種のコウシンソウ (P. ramosa) が分布しています。

日本産のムシトリスミレは高山植物であり、自生地が保護されている場所も多いため、入手や栽培は難しいとされています。一方で、海外産の栽培しやすい種や交配種が流通しており、これらは生息環境によって栽培方法が異なります。

シノニム

Pinguicula vulgaris L. subsp. macroceras (Pall. ex Link) Calder et Taylor
Pinguicula macroceras Pall. ex Link

食虫植物としての特徴

ムシトリスミレは、葉の表面に生えた腺毛から粘液を分泌し、そこに虫をくっつけて捕獲します。捕らえられた虫は、葉から分泌される消化液によって分解され、植物の栄養となります。

その他

かつては、北海道に産する大型のものをオオムシトリスミレとして区別していたこともあります。また、園芸家の鈴木吉五郎は、ヨーロッパ産の系統をセイヨウムシトリスミレと呼んでいました。

ギャラリー

いずれもヨーロッパ産の P. vulgaris です。

関連項目

食虫植物

参考文献

米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList）

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