シッキム王国

シッキム王国：ヒマラヤに栄えた仏教王国の興亡

シッキム王国は、1642年から1975年まで、現在のインド・シッキム州に存在した王国です。ナムゲル朝とも呼ばれ、チベット仏教ニンマ派を信仰していました。その歴史は、レプチャ族の居住地へのチベット系住民の移住から始まり、複雑な国際関係と内紛を経て、最終的にインドへの編入という結末を迎えます。

建国と初期の版図

シッキムに最初に居住していたのはレプチャ族でした。しかし、17世紀初頭、チベットがゲルク派主導のガンデンポタン（ダライ・ラマ政権）によって統一されると、ゲルク派に対抗するニンマ派の高僧と信者の一部がシッキムに亡命しました。彼らはプンツォ・ナムゲルを王に擁立し、ヨクサムを首都としてシッキム王国を建国しました。

建国当初、シッキム王国は現在のシッキム州よりもはるかに広大な領土を有していました。その版図は、北はタンラ山脈、東はタゴン峠（ブータンのパロ近く）、南はティタリヤ（ベンガルとビハールの境界近く）、西はネパールのティマル川岸まで及んでいました。プンツォ王は中央集権的な行政機構を整備し、首都には12人の大臣からなる評議会を設置、地方には12の県を置いて統治しました。しかし、チベット系住民が建国した亡命政権であったため、チベット、そしてチベットを属国としていた清朝からも影響を受ける複雑な立場にありました。

外敵との闘争：ブータンとネパール

17世紀後半から18世紀にかけて、シッキム王国はブータン、ネパールの侵略に苦しめられました。1706年にはブータンがカリンポン地方を奪取しました。これは、ブータン王女の王位継承権争いをめぐる介入が背景にありました。その後もブータンの侵攻は続き、シッキムは領土の一部を失いました。

18世紀後半には、ゴルカ王国（ネパール）の台頭が新たな脅威となりました。ネパール軍はシッキム領に侵攻し、ティスタ川西岸の領土を奪いました。シッキム王は一時的にチベットに亡命するなどしましたが、ネパールとの戦いは長く続きました。

イギリスとの関係：保護国化と領土割譲

19世紀に入ると、イギリス領インド帝国の台頭がシッキムの歴史に大きな影響を与えます。グルカ戦争（1814-1816年）後、イギリスはネパールにティスタ川西岸の領土を放棄させました。シッキムはこれを回復する一方、イギリスの保護国となりました。イギリスはダージリンなどの領土をシッキムに譲渡する一方、シッキムの保護国化を進め、内政への介入を強めていきました。

しかし、ダージリンの割譲はチベットの反発を招き、イギリスとシッキムの関係は悪化しました。1849年にはイギリス人外交官が逮捕される事件が発生し、イギリス軍はシッキムに侵攻、さらに領土を奪いました。1861年には、シッキムはイギリスとの条約で国権を委譲し、その従属関係は強まりました。その後、イギリスはシッキムの行政に深く関与し、経済開発のためネパールからの移民を促進しました。この政策は、のちにシッキムの人口構成を変え、王国の滅亡に繋がります。

近代化とインドへの編入

20世紀に入ると、シッキム王は近代化政策を進めました。司法制度の改革、強制労働の廃止、土地改革など、様々な改革が行われました。1947年のインド独立後も、シッキムはインドの保護下に置かれました。しかし、インドとの関係は複雑でした。シッキム王はインドの保護下に不満を抱き、独立を目指しましたが、インドは親インド派の勢力を支援しました。

1970年代には、インドとシッキム王室間の対立が激化しました。インドは親インド政党を支援し、最終的にはシッキムの併合を決定しました。1975年、インド軍がシッキムに侵攻し、王政は廃止されました。国民投票を経て、シッキムはインドの第22番目の州として編入されたのです。シッキム王国の歴史は、ヒマラヤ山中の小国が、大国の思惑と複雑な国内情勢のなかで、その独立性を失っていく過程を示すものです。

歴代君主

プンツォ・ナムゲル（在位：1642年 - 1670年）
テンスン・ナムゲル（在位：1670年 - 1700年）
チャドル・ナムゲル（在位：1700年 - 1717年）
ギュルメ・ナムゲル（在位：1717年 - 1733年）
プンツォ・ナムゲル2世（在位：1733年 - 1780年）
テンジン・ナムゲル（在位：1780年 - 1793年）
ツグプ・ナムゲル（在位：1793年 - 1861年）
シケオン・ナムゲル（在位：1861年 - 1874年）
トゥトブ・ナムゲル（在位：1874年 - 1914年）
シケオン・トゥルク・ナムゲル（在位：1914年）
タシ・ナムゲル（在位：1914年 - 1963年）
パルデン・トンドゥプ・ナムゲル（在位：1963年 - 1975年）

もう一度検索