ムハンマド6世 (ナスル朝)

ムハンマド6世：激動の時代を生きたナスル朝の君主

ムハンマド6世（1333年 - 1362年）は、ナスル朝グラナダ王国の第10代スルターンとして、その短い治世において激しい政治的変動を経験しました。彼は、クーデターによる王位簒奪、カスティーリャ王国との同盟破棄、アラゴン王国との連携、そして最終的には暗殺という、波乱に満ちた生涯を送りました。

生い立ちと出自

ムハンマド6世は、ナスル朝の一族の出身であり、1333年3月18日にグラナダで生まれたと考えられています。彼は、以前のスルターンであるイスマーイール1世の兄弟の孫にあたり、スルターン家との血縁関係を持っていました。また、ユースフ1世の娘と結婚したことで、王家の本流との繋がりをより強固なものとしました。彼の通り名である「エル・ベルメホ」は、「赤毛の者」という意味で、彼の外見の特徴に由来しています。

クーデターによる王位簒奪

1359年、ムハンマド6世は、ムハンマド5世の弟であるイスマーイールを擁立し、クーデターを計画します。彼は、マルヤムという女性の資金援助を受け、およそ100人の部下を率いてアルハンブラ宮殿を襲撃、ムハンマド5世を廃位し、イスマーイール2世をスルターンに擁立しました。しかし、イスマーイール2世と対立したムハンマド6世は、1360年に再びクーデターを起こし、イスマーイール2世を殺害、自らムハンマド6世としてスルターンの座に就きました。

治世と外交

即位後、ムハンマド6世は「神の恩寵による勝利者」「神を頼りにする者」という意味の称号を名乗りました。しかし、彼は粗野な性格で、政治手腕にも欠けていたと伝えられています。ムハンマド6世は、前任者のムハンマド5世が進めていたカスティーリャとの同盟を破棄し、アラゴン王国と同盟を結びました。これは、カスティーリャとアラゴンの間で起こっていた「二人のペドロの戦争」において、アラゴン側につくという決断でした。しかし、アラゴンがカスティーリャと単独で講和したことで、ムハンマド6世はカスティーリャからの攻撃にさらされることになりました。

没落と暗殺

カスティーリャ王ペドロ1世は、亡命先から帰国したムハンマド5世と同盟を結び、ナスル朝に侵攻しました。ムハンマド6世は、一時的に勝利を収めたものの、最終的にはムハンマド5世とペドロ1世の攻勢に屈し、1362年4月13日にグラナダを脱出しました。その後、セビーリャに向かいペドロ1世に慈悲を願ったものの、かつてアラゴンと同盟を結んだことを恨んでいたペドロ1世によって、4月27日に殺害されました。彼の首はグラナダに送られ、晒されたと伝えられています。

政治的背景

ムハンマド6世の治世は、ナスル朝がキリスト教国であるカスティーリャ王国と、イスラム王朝であるマリーン朝という二つの大国に挟まれ、外交と軍事戦略を駆使して独立を維持しようとしていた時代でした。ナスル朝は、いずれかの勢力に支配されることを避けるため、両者と断続的に同盟を結び、時には武力に訴え、あるいは両者が互いに戦うように仕向けました。

評価

ムハンマド6世は、クーデターによって王位を簒奪し、短期間で失脚した君主として、その治世は混乱と不安定に満ちていました。しかし、彼の行動は、当時のナスル朝が置かれていた複雑な政治状況を反映しているとも言えるでしょう。彼の生涯は、激動の時代における権力闘争の厳しさを物語っています。

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