ムーアズ殺人事件

ムーアズ殺人事件

ムーアズ殺人事件は、1963年7月から1965年10月にかけて、イギリスのサドルワース・ムーアで発生した連続殺人事件です。この事件は、イアン・ブレイディとマイラ・ヒンドリーという二人の人物によって引き起こされ、その残虐性からイギリス社会に深い衝撃を与えました。

事件の概要

犯人のイアン・ブレイディは、読書家であり、アドルフ・ヒトラーの『我が闘争』やマルキ・ド・サドの著作を愛読する青年でした。彼は1961年に職場でマイラ・ヒンドリーと出会い、交際を開始します。二人は共謀し、殺人を繰り返すようになります。完全犯罪を企て、犠牲者を増やしていきました。事件の舞台となったサドルワース・ムーアは、荒涼とした荒野であり、犯人たちはここに遺体を埋めていました。このことから、この一連の事件は「ムーアズ殺人事件」と呼ばれるようになりました。

連続殺人事件の詳細

被害者は、ポーリン・リード、ジョン・キルブライド、キース・ベネット、レスリー・アン・ダウニー、エドワード・エヴァンズの5名で、いずれも10歳から17歳の少年少女でした。これらの被害者のうち、少なくとも4名が性的暴行を受けており、その様子が写真やテープに記録されていました。事件の残虐性を示す証拠となりました。

1966年の裁判から20年以上経過した1987年の調査で、3人の遺体が発見されましたが、キース・ベネットの遺体は現在に至るまで発見されていません。事件が発覚したのは、ヒンドリーの妹の夫であるデヴィッド・スミスが、ブレイディに依頼されエドワード・エヴァンズの殺害に加担したことがきっかけでした。スミスは自らの罪を悔い、妻と共に警察に通報しました。

当初、警察はエドワード・エヴァンズ、レスリー・アン・ダウニー、ジョン・キルブライドの3名の殺害しか把握していませんでしたが、1985年にブレイディがポーリン・リードとキース・ベネットの殺害について供述したことから、捜査が再開されました。ブレイディとヒンドリーは、それぞれ別々にサドルワース・ムーアで実況見分を行い、ポーリン・リードとキース・ベネットの殺害を認めました。

裁判の結果、二人は仮釈放の可能性のない終身刑を宣告されました。これはイギリスで最も重い刑罰であり、女性がこの刑を受けるのは史上初の出来事でした。

二人の最期

「全英最凶の女」と呼ばれたヒンドリーは、何度も釈放を訴えましたが、その訴えは認められることはなく、2002年に獄中で60歳で亡くなりました。一方、ブレイディは1985年に精神異常と診断され、アシュワース高度保安病院に入院していました。彼はヒンドリーとは対照的に、「絶対に釈放されたくない」「獄中で死にたい」と主張し、2017年5月に79歳で死亡しました。

この事件について、カーディフ大学教授のマルコム・マクロッチは、「『幼い頃から暴力にさらされ続けた屈折した女』と『サディスト嗜好のサイコパス男』によって起きた『悪い要因の連鎖』によるものだ」と分析しています。

学術的検討

再現ドラマの解説において、桐生正幸が動機面について検討を行っています。この事件は、心理学や犯罪学の分野においても、重要な研究対象となっています。

関連作品

ムーアズ殺人事件は、多くの書籍や映画、音楽などの作品に影響を与えています。

おぞましい二人（1977年に刊行されたエドワード・ゴーリー作の絵本）
サファー・リトル・チルドレン（ザ・スミスの楽曲、1984年発売のアルバム「ザ・スミス」に収録）
* See No Evil: The Moors Murders（2006年のイギリスのテレビドラマ）

これらの作品は、事件の衝撃や、犯人たちの心理を描いています。

ムーアズ殺人事件は、イギリス犯罪史における最も暗い出来事の一つとして、現在も語り継がれています。

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