ムール・フリット

ムール・フリット：ベルギーを代表する国民食

ムール・フリット（Moules-frites）は、ベルギーの代表的な郷土料理であり、ムール貝とフライドポテトを組み合わせたシンプルな料理です。ベルギーのみならず、フランスを始めとする北ヨーロッパ諸国で広く愛され、その人気は国境を越えています。多くのベルギー人がこの料理を自国の代表的な料理として挙げ、国民食としての地位を確立しています。

歴史：古くから愛されるベルギーの味

ムール・フリットの発祥はベルギーと考えられており、その歴史は古くからベルギーの食文化に深く根付いています。18世紀の文献には、冬の時期に魚が手に入りにくい状況下で、フライドポテトに似た料理がベルギーの家庭で広く食べられていたことが記されています。ムール貝は古くからベルギー人の主食として親しまれており、それがフライドポテトと組み合わせられるようになった経緯は定かではありませんが、いつしか人々の間で定着し、現在のムール・フリットへと発展していきました。

フライドポテトの発祥地については、ベルギーを含む複数の国が主張しており、その起源は依然として不明な点が残されています。

調理法：様々なバリエーションと、新鮮なムール貝

ムール貝の調理法は多様性に富んでおり、数多くのバリエーションが存在します。代表的な調理法としては、白ワイン蒸し（Moules marinières）、シンプルに香味野菜で炒めるナチュール（Moules natures）、濃厚なクリームソースを絡めたクリーム蒸し（Moules à la crème）、ビールを使ったビール蒸し（Moules à la bière）、ニンニク風味のガーリック蒸し（Moules à l'ail）などがあります。

ベルギーで食されるムール貝は、多くがオランダのゼーラント州近海で養殖されたものが使用されます。毎年8月末には、新鮮なムール貝の収穫を祝うかのように、多くのレストランがムール・フリットの提供を始めるのが習わしとなっています。

フライドポテトには、デンプン質の多いビンチェというジャガイモ品種が用いられることが多いです。独特の食感を実現するために、一般的に二度揚げの技法が用いられ、高温で揚げることで外はカリッと、中はホクホクとした仕上がりに。ベルギーでは、フライドポテトにマヨネーズを付けて食べるのが一般的です。

提供方法と栄養：シンプルな構成と意外なボリューム

ムール・フリットは、フライドポテトがふやけるのを防ぐため、通常はムール貝とフライドポテトが別々の器で提供されます。ムール貝は、調理に使用された鍋ごと提供されることが多いです。一人前の量は1～1.5kgにも及びますが、ベルギーの人々はこれを一人で平らげてしまうほどの大食いぶりです。

栄養価については、フランスの栄養士によると、フライドポテトは150g程度、ムール貝は1リットル程度が適量とされています。これは約500～600kcalに相当します。

人気と大衆文化：ベルギーの象徴、そして音楽にも

ムール・フリットはベルギーでは非常に人気が高く、郷土料理として深く浸透しています。ムール・フリットのみを提供する専門レストランも多く存在し、それぞれの店が独自のレシピや調理法を競い合っています。フランスにおいても高い人気を誇り、ある調査では、フランスで最も好まれている料理の一つとして上位にランクインしています。

ベルギーのシンガーソングライター、ストロマエのアルバム『ラシーン・キャーリー』には、「ムール・フリット」というタイトルの楽曲が収録されており、この料理がベルギーの文化に深く根付いていることを象徴的に示しています。

参考文献

Lawrence R. Schehr, Allen S. Weiss (2001) French Food: On the Table, On the Page, and in French Culture. Routledge. ISBN 978-0415936286
西村万里子（文・絵）『ベルギー至福の食卓』海鳥社、1999年。ISBN 978-4874152706

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