メアリー・サマヴィル

メアリー・フェアファックス・サマヴィル：19世紀を代表する女性科学者

メアリー・フェアファックス・サマヴィル (1780年 - 1872年) は、スコットランド出身の傑出した科学ライターであり、博学者でした。19世紀という、女性が科学の世界で活躍することが非常に困難であった時代に、数学、天文学、物理科学の分野で多大な貢献を果たしました。彼女の名は、時に「メアリー・サマーヴィル」と表記されることもあります。

困難な少女時代と独学への道

海軍中将の娘として、スコットランドの裕福な家庭に生まれたメアリーでしたが、彼女が受けた教育は、男性の兄弟と比較すると非常に限られていました。10歳の頃、寄宿学校に送られたものの、読み書きができるようになった程度でしかありませんでした。しかし、メアリーは並外れた学習意欲を持っていました。兄弟が数学の個人授業を受けている様子を偶然耳にした彼女は、難問を解き、家庭教師を驚かせます。その後も、自学自習によって数学、天文学、地理学などの知識を深めていきました。

エディンバラ社交界にも参加し、華やかな生活を送る一方で、メアリーは学問への情熱を燃やし続けました。透視図法の学習がきっかけでユークリッド幾何学に没頭し、『自然哲学の数学的諸原理』（アイザック・ニュートン著）などの難解な書物にも挑戦しました。しかし、妹の早逝を機に、勉強のしすぎが原因だと考えた両親から勉強を禁じられる時期もありました。それでも、メアリーは秘密裏に研究を続けました。

結婚と研究生活

メアリーは2度結婚しました。最初の夫はロシア領事でしたが、彼女は夫の学問への理解の無さに不満を抱えていました。最初の夫の死後、彼女は再び結婚し、2人目の夫は彼女の科学研究を積極的に支援しました。この2度目の結婚は、メアリーにとって転機となり、彼女は数多くの著名な科学者たちと交流し、研究を深めることができました。

科学への貢献

メアリーは、天文学に特に強い関心を抱いていました。彼女は天文学を、物理科学の集大成と捉え、その研究に情熱を注ぎ込みました。ピエール＝シモン・ラプラスからは、「私のことを理解してくれる女性は3人だけです。サマヴィル夫人、あなたと、カロライン・ハーシェルです」とまで言わしめるほどの才能の持ち主でした。

メアリーの重要な業績として、ラプラスの『天体力学概論』の英訳があります。彼女は単に翻訳しただけでなく、当時の英国の数学者にはほとんど知られていなかった数学的側面を詳しく解説を加えました。この英訳は、ラプラスの理論を英国で広く普及させることに貢献し、メアリー自身の名声を高めることにもつながりました。

他にも、『物理科学の諸関係』（1834年）、『自然地理学』（1848年）などの重要な著作を著し、これらは20世紀まで教科書として用いられるほど高い評価を得ました。「scientist」という言葉は、ウィリアム・ヒューウェルが彼女の著作の書評の中で初めて使用したものです。

メアリーの著作は、その分かりやすい文章と、科学への深い愛情によって多くの人に親しまれ、J.C.マクスウェルやジョン・クーチ・アダムズなどの著名な科学者にも影響を与えました。

晩年と死後

晩年はイタリアで過ごしました。91歳で、ジョン・スチュアート・ミルの女性参政権運動に署名したことが記録に残されています。1872年、ナポリで死去しました。

メアリーの死後も、彼女の功績は高く評価され続け、オックスフォード大学サマヴィル・カレッジ、サマヴィル島、小惑星サマヴィルなど、彼女の名を冠した施設や天体が数多く存在します。また、2017年には、スコットランドの新しい10ポンド紙幣の肖像に選ばれ、その偉業は今なお人々の記憶に刻まれています。

彼女が残したもの

メアリー・サマヴィルは、女性が科学の世界で活躍することを困難な時代において、並外れた才能と強い意志で道を切り開いたパイオニアでした。彼女の残した著作は、科学の普及に大きく貢献し、後世の科学者たちに大きな影響を与え続けました。彼女の人生は、挑戦を恐れず、自らの能力を信じ、夢を追い続けた女性の物語として、現代においても大きな感動を与え続けています。

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