メイド・イン・USA

『メイド・イン・USA』：ゴダール監督による政治サスペンス

ジャン＝リュック・ゴダール監督による1966年のフランス映画『メイド・イン・USA』は、複雑な政治的陰謀と、映画製作へのメタ的考察が融合した、実験的で挑発的な作品です。ゴダール監督は、この年、『彼女について私が知っている二、三の事柄』やオムニバス映画『愛すべき女・女たち』の一篇も手がけており、本作はその中でも独特な存在感を放っています。

本作の着想は、モロッコで実際に起きた左翼政治家失踪事件「ベン・バルカ事件」と、リチャード・スターク（ドナルド・E・ウェストレイクの別名）の小説『悪党パーカー/死者の遺産』から得られたものです。ゴダール監督はこれらの素材を独自の解釈で再構築し、独特の政治スリラーを完成させました。

映画の舞台は架空の都市「アトランティック・シティ」。レイモンド・チャンドラーの小説に登場する地名を引用することで、ノワール的な雰囲気を醸し出しています。物語は、主人公ポーラ・ネルソン（アンナ・カリーナ）が、昔の愛人リシャール・ポリツェール（声：ジャン＝リュック・ゴダール）の死をきっかけに、謎めいた事件に巻き込まれることから始まります。

リシャールは週刊誌の論説主幹でありながら、同時に党の指導者でもあったため、彼の死は単なる事故ではありませんでした。ポーラは、リシャールの死の真相を追う中で、様々な人物と出会います。中には、映画監督や俳優の名前を冠した登場人物も登場し、映画と現実の境界を曖昧にする演出となっています。

例えば、ドナルド・シーゲル（ジャン＝ピエール・レオ）、リチャード・ウィドマーク（ラズロ・サボ）といった、ハリウッドを代表する人物の名前が、物語に重要な役割を果たす登場人物に付けられています。さらに、マリアンヌ・フェイスフルやフィリップ・ラブロといった著名人も本人役で出演し、映画の世界に現実感を付与しています。

物語は、暗殺、監視、そして謎解きと、スリラー要素が満載です。ポーラは、様々な危険を冒しながらも、事件の真相に近づいていきます。そして、最終的にリシャール暗殺の黒幕は、リチャード・ウィドマークとドナルド・シーゲルであることが明らかになります。ポーラは協力者デイヴィッド・グーディスとともに、事件を解決へと導きます。

『メイド・イン・USA』は、ゴダール監督の他の作品と同様に、実験的な映像手法や、政治的メッセージ、そしてメタ的な要素が複雑に絡み合った作品です。単純なストーリー展開ではなく、観る者に様々な解釈を促す、挑戦的な映画と言えます。アメリカン・ノワール、政治サスペンス、そしてゴダール自身の映画論が入り混じった、唯一無二の傑作として高く評価されています。

音楽にはベートーヴェンやシューマンといったクラシック音楽が使用されており、映像と音楽の対比もこの映画の魅力の一つです。ゴダール監督作品に共通する要素である、政治への鋭い批評性と、映画表現への実験精神が存分に発揮された作品となっています。Rotten Tomatoesでの高い支持率も、その質の高さを証明していると言えるでしょう。

ゴダール作品に触れたことのない方にも、その独特の世界観と、政治的メッセージの強さを知ることができる、格好の入門編となるでしょう。複雑なストーリー展開に惑わされることなく、ゴダール監督の意図を探りながら鑑賞する、知的で刺激的な映画体験が待っています。

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