メキシコ国立自治大学

メキシコ国立自治大学：ラテンアメリカの学術の中心地

メキシコシティに本部を置くメキシコ国立自治大学（UNAM）は、1551年9月21日、王立メキシコ大学として創立された由緒ある大学です。アメリカ大陸ではペルーの国立サンマルコス大学に次いで2番目に古い歴史をもち、5世紀近くに渡る伝統と革新を誇ります。

UNAMは、ラテンアメリカで最大規模の大学として知られています。その学術的な貢献は計り知れず、卒業生の中から3人のノーベル賞受賞者を輩出しています。アルフォンソ・ガルシア・ロブレス氏（ノーベル平和賞）、オクタビオ・パス氏（ノーベル文学賞）、マリオ・モリーナ氏（ノーベル化学賞）といった著名な人物が、UNAMで学んだ経験を基に世界的な功績を残しました。さらに、アナ・マリア・セット氏が参加したパグウォッシュ会議と国際原子力機関は、それぞれ1995年と2005年にノーベル平和賞を受賞しており、UNAMの国際的な影響力を示しています。2009年には、大学自体がアストゥリアス皇太子賞コミュニケーションおよびヒューマニズム部門を受賞する栄誉にも輝いています。

UNAMは1920年代に自治権を獲得し、以来、カリキュラムの決定や予算管理において政府の干渉を受けずに運営されています。学問の自由と独立性を重んじる大学としての姿勢は、今日まで脈々と受け継がれ、自由な研究環境を維持することに成功しています。

メキシコ社会における役割

UNAMは、メキシコのエリート層を育成する役割を担いつつ、社会貢献にも積極的に取り組んでいます。政府からの潤沢な財政支援を受けて授業料は低額に抑えられており、特に貧困層出身者の学生に対しては、奨学金制度、夜間授業、食堂の補助金制度などの手厚い支援体制が整えられています。これは、メキシコの深刻な社会格差問題への対応策として位置づけられており、教育機会の平等を促進する重要な役割を担っています。

歴史的変遷

UNAMの歴史は、メキシコの歴史と深く関わっています。ヨーロッパの大学、特にサラマンカ大学をモデルとして設立されたUNAMは、当初「王立兼教皇庁立メキシコ大学」という名称でした。メキシコ独立後、「国立兼教皇庁立大学」と改称されましたが、自由主義者からは反動的な存在とみなされ、幾度となく閉鎖の危機に瀕しました。メキシコ第二帝政下では、1865年に完全に廃止されるという苦境を経験しました。

その後、フスト・シエラ氏を中心とした尽力により、国立大学の建設計画が推進され、1910年に「メキシコ国立大学」として再出発しました。しかし、メキシコ革命の勃発により、大学の運営は不安定な時期を過ごします。1929年の国民革命党による大学への介入に対して学生がストライキを起こすなど、激動の時代を乗り越え、1933年には「メキシコ自治大学」へと改称、現在の自治的な大学組織となりました。20世紀には1960年代と1999年から2000年にかけて学生ストライキが発生するなど、現代に至るまで、常に社会の変化に対応しながら発展を続けてきました。2007年には、UNAMのメインキャンパスであるシウダー・ウニベルシタリアがユネスコの世界遺産に登録され、その歴史的・文化的価値が国際的に認められました。

著名な卒業生

UNAMは、メキシコのみならず、世界各国で活躍する多くの著名人を輩出しています。メキシコ大統領を歴任した人物も多く、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏、カルロス・サリナス・デ・ゴルタリ氏、ミゲル・デ・ラ・マドリ・ウルタード氏、ホセ・ロペス・ポルティーヨ氏、ルイス・エチェベリア・アルバレス氏、ミゲル・アレマン・バルデス氏などが挙げられます。また、コスタリカやグアテマラの元大統領もUNAMの卒業生です。

科学分野では、経口避妊薬の共同開発者であるルイス・ミラモンテス氏、メキシコ人初の宇宙飛行士であるRodolfo Neri Vela氏、ノーベル化学賞受賞者のマリオ・モリーナ氏、天文学者のギイェルモ・アロ氏などが知られています。さらに、政治家、実業家、建築家など、多様な分野で活躍する卒業生を数多く輩出しています。世界的な富豪として知られるカルロス・スリム氏もUNAMの卒業生の一人です。

UNAMは、その長い歴史と高い教育水準、そして社会貢献活動を通じて、メキシコそして世界の発展に大きく貢献し続けている、まさにラテンアメリカの学術の中心地と言えるでしょう。

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