メタノコックス綱

メタノコックス綱 (Methanococci)

概要

メタノコックス綱（学名：Methanococci）は、主に海洋環境に広く生息するメタン生成性の古細菌の一綱です。このグループに属する微生物は、水素と二酸化炭素、あるいはギ酸をエネルギー源として利用し、最終産物としてメタンガスを生成します。古細菌全体の大きな区分であるユリアーキオータ門に含まれ、系統解析の結果からはメタノバクテリウム綱やメタノピュルス綱に比較的近い関係にあることが示されています。

特徴

メタノコックス綱の古細菌は、一般的に球状の形態をしており、活発な運動性を示す種が多いことが特徴です。細胞壁の構造はグラム陰性菌に類似しており、細胞表面は単純なタンパク質から構成される薄いS層と呼ばれる層に覆われています。しかし、このS層は機械的な強度が比較的弱く、純水や界面活性剤などに触れると細胞が容易に壊れてしまう（溶菌する）性質を持っています。また、ゲノムDNAのグアニンとシトシンの含有量（GC含量）が低い傾向にあり、通常40%以下であることが知られています。この低いGC含量は、同じくグラム陰性を示す他のメタン生成菌であるメタノミクロビウム綱などと区別するための重要な指標の一つとなっています。

生息環境と多様性

メタノコックス綱には、その生息環境や至適生育温度によって大きく二つの科が知られています。

メタノコックス科 (Methanococcaceae)：この科に属する種は、比較的穏やかな温度条件（常温性または弱い好熱性）を好み、海洋の沈殿物など、広範な種類の嫌気的な環境から発見されています。
メタノカルドコックス科 (Methanocaldococcaceae)：一方、メタノカルドコックス科の種は超好熱性であり、深海の熱水噴出孔のような非常に高温の環境に特化して生息しています。このような極限環境に耐えうる能力を持っています。

研究における重要性

メタノコックス綱の仲間の中で、特にMethanocaldococcus jannaschiiという種は、多くの研究において重要なモデル生物として利用されてきました。この種は、古細菌として初めてその全ゲノム配列が完全に解読されたことで知られています。このゲノム情報の解析により、古細菌のDNA複製、転写、翻訳といった基本的な生命活動に関わる遺伝子や機構が、真核生物のそれらにゲノムレベルで類似していることが具体的に証明されました。これは、古細菌が原核生物と真核生物の中間に位置づけられる系統的な特徴を持つことを裏付ける重要な発見でした。また、Methanocaldococcus jannaschiiは至適生育条件下での世代時間が約26分と、他のメタン生成菌の中でも非常に速い増殖速度を示します（メタン菌全体では2番目に速いとされます）。この速い世代時間も、生理学、遺伝学、生化学など、様々な分野における研究ツールとして活用される理由の一つとなっています。

分類体系

メタノコックス綱はユリアーキオータ門に属し、現在は1つの目（メタノコックス目／Methanococcales）、その下に2つの科（メタノコックス科／Methanococcaceae、メタノカルドコックス科／Methanocaldococcaceae）、そして合計4つの属が設定されています。

メタノコックス目 (Methanococcales)

メタノコックス科 (Methanococcaceae)
メタノコックス属 (Methanococcus)
代表種：M. vannielii, M. aeolicus, M. maripaludis, M. voltae
メタノテルモコックス属 (Methanothermococcus)
代表種：M. thermolithotrophicus, M. okinawensis
メタノカルドコックス科 (Methanocaldococcaceae)
メタノカルドコックス属 (Methanocaldococcus)
代表種：M. jannaschii, M. fervens, M. indicus, M. infernus, M. vulcanius
メタノトッリス属 (Methanotorris)
代表種：M. igneus, M. formicicus

分類の歴史においては、メタノコックス目の基準属であるMethanococcus属が1936年に初めて提唱されて以来、何度か分類学的見直しが行われてきました。例えば、当初基準種とされていた"Methanococcus mazei"は、その後の研究でMethanosarcina属に移され、現在はMethanococcus vannieliiが新たな基準種となっています。また、研究が先行しているMethanocaldococcus jannaschiiも、以前は"Methanococcus jannaschii"と呼ばれていた時期があり、古い文献などではその名称で記載されていることもあります。

参考文献

Jones, W.J., et al. (1983). Methanococcus jannaschii sp. nov., an extremely thermophilic methanogen from a submarine hydrothermal vent. Arch. Microbiol. 136(4): 254–261. doi:10.1007/BF00425213.
Bult, C.J., et al. (1996). Complete genome sequence of the methanogenic archaeon, Methanococcus jannaschii. Science 273(5278): 1058–1073. doi:10.1126/science.273.5278.1058.

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