メタリジウム

メタリジウム（Metarhizium）

メタリジウムは、昆虫に病気を引き起こす微生物で、バッカクキン科に属する糸状菌です。特にその分生子は独特の緑がかった色合いを持ち、様々な昆虫に感染して死亡させることが知られています。この特性から、メタリジウムは害虫を制御するための微生物農薬として広く利用されています。メタリジウム属には、黒きょう病菌や緑きょう病菌、さらに有性世代として広義の冬虫夏草に分類される菌が含まれています。

生態と感染メカニズム

メタリジウムは昆虫の外皮を分解する酵素を分泌し、それを通じて体内に侵入します。侵入後、病原菌は非リボソームペプチドの一種であるデストラキシン（distruxins）を生成し、この毒素が昆虫に致命的な影響を与えます。昆虫は通常、感染後2〜3日で死亡し、その死骸の表面には菌糸が現れます。この菌糸は、湿度が適切な環境であれば緑色や赤色の胞子を形成し、新しい個体の発生を助けます。

進化の過程で昆虫は様々な免疫機構を獲得してきたため、メタリジウムは特定の昆虫に特化して感染する傾向が強くなっています。また、メタリジウムは土壌中で根圏に生息し、植物の根や根毛に寄生することで、昆虫由来の窒素成分を植物へと供給することが示唆されています。

分類と歴史

メタリジウムは1879年にロシアの微生物学者イリヤ・メチニコフによって最初に記載され、その後、別の種名に変更されました。おおよそ100年間にわたり、10種以上が新たに命名され、その分類は1976年に一つの基準として整理されました。2000年代に入ってからは、分子系統解析が進んだことにより隠蔽種が発見され、既存の分類の見直しや新しい種の定義が行われています。2014年には、メタリジウム属の定義をより多くの近縁種を含む内容に改定する提案がされました。

現時点で、メタリジウム属には約30から40種類が存在すると考えられています。特に、M. anisopliaeやM. flavovirideなどは注目され、これらの近縁種に関する研究も進められています。

分布と利用

メタリジウムは、世界中に広く分布しています。日本国内でも少なくとも8種類が確認されており、中でもM. pingshaenseが優勢と言われています。

生物農薬としての利用

メタリジウムは、その感染特性から昆虫に対してのみ影響を及ぼすと考えられており、バッタ、シロアリ、アザミウマなどの駆除に生物農薬として利用されています。特に、マラリア対策として蚊に対する研究もなされています。International LUBILOSA Programmeなどのプロジェクトでは、M. acridumを用いた生物農薬の研究が盛んに行われ、昆虫の死亡率に影響を与える要因（昆虫の種類、製剤方法、気象条件など）が調査されています。

バイオ燃料としての研究

2007年には、M. anisopliaeから抽出されたリパーゼを利用したバイオディーゼル製造技術がインド化学工科大学により発表されました。この技術は従来のバイオディーゼル製造法に比べ、加熱工程が不要で、室温で行うことが可能という利点があります。

メタリジウムの特性を活かした研究や応用は、今後の農業やエネルギー生産の分野において重要な役割を果たすことでしょう。

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