リパーゼ

リパーゼは、脂質を構成するエステル結合を加水分解する酵素の総称です。この酵素は、ギリシャ語で「脂肪」を意味する“lipos”と、「酵素」を意味する“ase”を組み合わせた言葉に由来します。一般的には、トリグリセリド（グリセロールと脂肪酸のエステル）を分解して脂肪酸を遊離させるトリアシルグリセリドリパーゼ（EC 3.1.1.3）を指すことが多いです。

リパーゼは、消化液（胃液や膵液など）に含まれる消化酵素として、摂取した脂質の消化を助ける重要な役割を果たしています。また、多くの生物の細胞内でも脂質の代謝に関与しており、生命活動に不可欠な酵素と言えます。リパーゼは、その機能や立体構造が多様であり、すべての生物に存在し、一部のウイルスにもその遺伝子が見られます。

リパーゼの活性中心には、求核性の酸素原子を持つセリン、酸性アミノ酸残基（アスパラギン酸など）、ヒスチジンが含まれるタイプが多く見られます。これらのアミノ酸残基は、酵素反応において重要な役割を果たします。多くのリパーゼは、基質であるグリセロール骨格の特定の位置（3か所のいずれか）のエステル結合を選択的に分解します。さらに、リパーゼは加水分解反応だけでなく、その逆反応であるエステル合成にも関与します。この性質を利用して、人工的なエステル合成やエステル交換反応に広く用いられています。エステル合成の際には、目的のエステルの加水分解を抑制するために、有機溶媒中で反応を行うことが一般的です。

リパーゼは、消化薬や洗剤などの日用品にも添加されています。これは、リパーゼの脂質分解能力を応用したものです。また、広義のリパーゼとしては、リン脂質（細胞膜の主要な構成要素）を分解するホスホリパーゼが挙げられます。ホスホリパーゼは、エイコサノイド（プロスタグランジンなど）の合成や細胞内での情報伝達など、細胞内外での機能調節において重要な役割を担っています。このように、リパーゼは生物の生命維持だけでなく、様々な産業分野においても活用されている重要な酵素です。

リパーゼの研究は、医療や食品産業など、幅広い分野での応用が期待されており、今後もその重要性は増していくと考えられます。

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