メッシュ (漫画)

『メッシュ』

『メッシュ』は、日本の漫画家、萩尾望都によって描かれた長編シリーズです。小学館が発行する漫画雑誌『プチフラワー』に、1980年夏の号から1984年6月号にかけて連載されました。

この作品は、パリを主な舞台とした連作短編の形式で構成されています。物語の中心にいるのは、フランソワーズ・マリー・アロワージュ・ホルヘス、通称メッシュと呼ばれる少年です。彼は幼い頃に母親に去られ、実子であることすら疑った父親からは憎悪にも似た感情を向けられるという、極めて孤独で過酷な環境に置かれています。物語は、そんなメッシュの傷つきながらの放浪、様々な人物との出会いを通じた成長、そして自らを支配しようとする父親との避けられない対立を重厚に描き出します。

本作は、父親に対して複雑な、いわゆるアンビバレントな感情を抱える少年をテーマにした前作『訪問者』に続いて描かれており、父と息子の間の葛藤という主題を深く掘り下げています。

また、『メッシュ』の大きな特徴として、性同一性や性別に関するテーマが副題のように全編を通して描かれている点が挙げられます。主人公メッシュは男性でありながら、本名が女性的な名前であったり、女装を楽しむ場面があったり、同性愛者から強く言い寄られたりするなど、その性別や自己認識には揺らぎやあいまいさが存在します。こうしたテーマは、後年の萩尾望都の代表作である『マージナル』や『残酷な神が支配する』にも通じるものであり、作家性の深化を示す要素と言えます。加えて、本作は萩尾作品において初めてベッドシーンが描かれたことでも知られ、キスシーンも多く登場します。

作風の面でも、『メッシュ』は作者にとって重要な転換期を象徴する作品と位置づけられています。それまでの、細やかなエピソードを積み重ねることで全体を構築するような構成から、より旧来の物語形式に沿った、平明で分かりやすい構成へと変化しています。シリアスで時に痛ましい内容の中に、意図的にユーモラスな要素を織り交ぜる手法も用いられています。画風においても変化が見られ、初期の手塚治虫の影響を受けた柔らかで丸みを帯びた筆致から、より硬質で写実的なタッチへと移行しています。

物語には、メッシュを取り巻く個性豊かな人物たちが登場します。傷ついたメッシュを拾い、共同生活を送ることになる贋作画家ミロン・ファレルは、メッシュにとって一時的な安息と人間的な温かさをもたらす存在です。アパートの階下に住む医者のルイ・シラノやその恋人エレーヌ、ミロンの顧客である画廊の主人、そしてミロンの恋人カティなど、メッシュの周囲には様々な人々が現れます。一方、メッシュの過去と深く関わる人物としては、かつて彼が身を寄せていたギャングのドルーやそのボスバンがいます。そして最も重要な存在が、メッシュの父親であるギャングのジャン・サムソン・ホルヘスです。彼はメッシュの実子であることを認めつつも、支配的な態度で接し続けます。ホルヘスの後妻であるエーメはメッシュを案じていますが、メッシュの実母マルセリーナ・ルビエ（マルシェ）は心を病んでしまっています。これらの登場人物たちが織りなす人間関係が、メッシュの複雑な内面と物語のドラマを深めています。

『メッシュ』は、その評価の高さから、2005年6月15日から7月4日にかけて、劇団Studio Lifeによってシアターサンモールにて舞台化もされました。脚本・演出は倉田淳が手掛け、メッシュ役は山本芳樹と岩﨑大がダブルキャストで演じ、ミロン役は曽世海児と高根研一が務めました。

複雑な家族関係、性のアイデンティティ、そして自己確立という普遍的なテーマを、繊細かつ力強い筆致で描き出した『メッシュ』は、萩尾望都作品の中でも特に深く心に残る一作として多くの読者に愛されています。

もう一度検索