メトロノーム (雑誌)

メトロノーム (Metronome)

アメリカ合衆国で1881年から1961年にかけて、およそ80年間にわたり刊行されていた音楽雑誌です。その長い歴史の中で、アメリカのポピュラー音楽、特にジャズの発展と普及に重要な役割を果たしました。

概要と歴史

『メトロノーム』誌は、創刊された19世紀後半から20世紀初頭にかけては、主にマーチングバンドの奏者や、ダンスホールなどで演奏する伴奏バンドのミュージシャンを読者層として想定していました。しかし、1930年代にスウィングジャズが隆盛を迎え、アメリカのポピュラー音楽の中心がジャズへと移行するにつれて、雑誌の内容も大きく変化しました。

スウィング時代以降は、より専門的にジャズ音楽を扱い、熱心なジャズ愛好家やプロのミュージシャンに向けた記事に重点を置くようになります。演奏家へのインタビュー、最新のレコードレビュー、音楽理論に関する解説など、ジャズに関する多角的な情報を提供し、多くのジャズファンから支持を集めました。

主要な貢献者

『メトロノーム』誌からは、ジャズ批評やジャーナリズムにおいて後世に名を残す重要な書き手が輩出されました。中でも特筆すべきは、共同編集人を務めたレナード・フェザーとバリー・ウラノフです。彼らは単なる記者にとどまらず、鋭い批評眼を持ち、当時のジャズシーン、特に勃興期のビバップに対する深い理解を示しました。トランペット奏者のマイルス・デイヴィスは、彼ら二人を当時のニューヨークにおいてビバップを真に理解していた数少ない白人批評家であると評したことで知られています。

メトロノーム・オール・スターズ企画

『メトロノーム』誌の歴史において、特に有名な企画として「メトロノーム・オール・スターズ」が挙げられます。これは、1939年から雑誌が廃刊となる1961年までの毎年、読者を対象に行った人気投票に基づいた企画です。

レコーディングの特徴

これらのオールスターセッションでは、通常2曲が録音されるのが通例でした。楽曲のアレンジは、参加したミュージシャンの技量を最大限に引き出すように工夫されており、参加者のほぼ全員に短いながらも個性を示すソロパートが与えられる構成となっていたのが特徴です。これにより、リスナーは当時のトッププレイヤーたちの旬の演奏を一度に聴くことができました。

具体的な例と名称の多様性

オールスターバンドの有名な例としては、1940年に編成された9人組の「メトロノーム・オール・スター・ナイン」が挙げられます。この豪華なメンバーには、スウィング時代を代表するスターたちが名を連ねました。例えば、トランペットのハリー・ジェイムス、トロンボーンのジャック・ティーガーデン、アルトサックスのベニー・カーター、ピアノのジェシー・ステイシー、ギターのチャーリー・クリスチャン、ドラムスのジーン・クルーパといった面々が参加しています。

このオールスター企画で結成されたバンドの名称には、年や時期によっていくつかのバリエーションが見られました。「メトロノーム・オール・スター・ナイン」のほかにも、単に「メトロノーム・オール・スターズ (Metronome All Stars)」と呼ばれることもあれば、「メトロノーム・オール・スターズ1956 (Metronome All Stars 1956)」のように年号が付加されたり、「ザ・メトロノーム・オール・スターズ (The Metronome All-Stars)」、「メトロノーム・オールスターズ (Metronome Allstars)」といった英語表記の微妙な違いも確認されています。

雑誌の終焉

ジャズの歴史における重要な証言者であり、多くのファンとミュージシャンに影響を与えた『メトロノーム』誌ですが、惜しまれつつもその長い歴史に幕を下ろし、1961年に廃刊となりました。

『メトロノーム』誌とそのオールスター企画は、ジャズという音楽ジャンルの変遷を記録し、当時のトップミュージシャンたちの活動を後世に伝える貴重な資料となっています。

もう一度検索