メナイ吊橋

北ウェールズ、グウィネズ地方とアングルシー島を隔てるメナイ海峡に架かるメナイ吊橋は、壮大な景観を生み出している。トーマス・テルフォードの設計により1826年に完成したこの橋は、かつて世界最長の吊橋であり、アングルシー島とウェールズ本土を結ぶ交通の要衝を確立した。英国指定建造物1級として、その歴史的・技術的価値は今なお高く評価されている。

建設の背景

メナイ海峡は、氷河が削った狭い水路だが、一日四回の潮汐が生み出す激しい潮流のため、船による横断は常に危険を伴った。渡し船が唯一の交通手段だった時代には、荒天時に転覆し犠牲者が出ることもあった。アングルシー島から本土へウシを運ぶ際も、海峡を泳がせる必要があり、失われることも珍しくなかった。

1800年のアイルランド併合後、ロンドンとアイルランド間の交通が増大し、アングルシー島のホリーヘッド港への安全なアクセスが急務となった。危険な海峡に橋を架ける必要性が高まり、土木技師トーマス・テルフォードが主要幹線道路建設を委託された。

テルフォードは調査の結果、バンガー付近から現在のメナイ・ブリッジ村にかけての地点に橋を架けることを計画した。この場所は、大型帆船が通行できる高さと、速い流れを渡るための長い主径間を確保できるため、吊橋形式が最適と考えられた。1818年、テルフォードの計画は議会の承認を得た。

画期的な建設

メナイ吊橋の建設は1819年 8月10日に開始された。最初の工程は、両岸に堅固な石積みのアーチと巨大な塔を構築することで、これに約6年を要した。塔は地元ペンモン産の石灰岩で作られ、内部は空洞とされた。

橋の主構造は、主径間176.4メートルを支える16本の巨大な鎖ケーブルである。それぞれのケーブルは、長さ2.9メートルの錬鉄製棒材935本を連結して作られた。鉄材は錆を防ぐために亜麻仁油に浸され、後に塗装された。各ケーブルは全長522.3メートル、重量121トンに達した。

1825年4月26日、最初の鎖ケーブル架設作業が行われた。150人の作業員が協力し、いかだの上からウインチを使ってケーブルを引き上げ、無事固定に成功した。テルフォードはこの成功に際し、神に感謝の祈りを捧げたと言い伝えられている。同年7月25日には全てのケーブル架設が完了。そして1826年 1月30日、盛大な開通式が執り行われ、最初の郵便馬車が橋を渡った。

開通後の改修と歴史

完成当初、橋の車道幅は約7.3メートルと狭く、強風時に不安定となる問題が判明した。このため、早期にトラスによる補強が必要となった。1840年には橋床が補強され、1893年には木製だった橋床全体が鋼製に更新された。

また、初期の4.5トンの重量制限は、交通量の増加に対応できなくなった。これを受け、1938年から1941年にかけ、古い錬鉄製チェーンは橋を閉鎖することなく鋼製チェーンに交換された。近年では、1999年に橋床の強化と再舗装のため一時閉鎖され、隣のブリタニア橋が迂回路となった。2005年には大規模な再塗装工事も行われた。

2005年2月28日、メナイ吊橋はユネスコ世界遺産の候補として推薦された。

文化的影響と現代

メナイ吊橋は地域社会や文化にも深く根ざしている。アングルシー島の海岸線沿いの遊歩道「アングルジー・コースタル・パス」はこの橋の下を通り、たもとにはメナイ・ブリッジの町が栄えている。

2005年に発行されたイギリスの1ポンド硬貨の裏面には、メナイ吊橋のデザインが採用された。また、英国王室のチャールズ3世陛下のコードネームが「メナイ・ブリッジ」であり、陛下の崩御に関する公式計画名も「オペレーション・メナイ・ブリッジ」とされている。

完成から約2世紀、メナイ吊橋は改修を重ねながら現代の交通需要に応え、アングルシー島と本土を結ぶ重要な役割を担い続けている。壮大な歴史と技術の証として、この橋はメナイ海峡に力強く架かっている。

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