メフィストフェレスの肖像

メフィストフェレスの肖像：聖飢魔IIの転換期を映す一枚

1996年、日本のヘヴィメタルシーンに衝撃を与えた聖飢魔IIの9枚目のオリジナルアルバム『メフィストフェレスの肖像』。前作から約2年ぶりのリリースであり、ソニー・ミュージックからの移籍第一弾という大きな転換期における作品でした。

制作背景：スキャンダルと低予算、そして過去の影

このアルバムの制作は、幾重もの困難に彩られました。まず、リーダーであるデーモン小暮閣下のスキャンダルがバンドのイメージに大きな傷跡を残していました。その影響は前作『PONK!!』の商業的な成功にも影を落とし、バンドの活動は厳しい状況に追い込まれていました。

さらに、レコード会社をソニーからBMGビクターに移籍したことで、制作予算は大幅に削減されました。限られた予算、人員、そして過去の成功体験に縛られない新しい方向性を探る必要がありました。

そのような状況下で、1995年夏に行われた10周年記念イベント「オール悪魔総進撃」が転機となります。イベントには脱退したダミアン浜田とジェイル大橋が参加。このことがきっかけとなり、彼らの楽曲が本作に収録されることになりました。これは、聖飢魔IIの初期の音楽性や世界観への回帰を意味すると同時に、過去の栄光への依存、そして新しいファン層の獲得への試みでもあったのです。

録音と制作：船頭なき船出

低予算の制作環境は、レコーディングのプロセスにも大きな影響を与えました。経験豊富なスタッフの不在、プリプロダクションの導入に伴う作業の増加、メンバー間の意見の相違など、困難は尽きませんでした。

特に、プリプロダクション導入は、バンドにとって新しい試みであり、戸惑いもあったようです。楽曲の選定においても、多くのデモテープを制作し、選考する必要が生じました。これは、新たな方向性を探る上で必要なプロセスでしたが、同時に時間と労力を要するものでした。

レコーディングにおいては、経費削減のため、簡素化された手法が取られました。その結果、メンバーの間では作業の効率性や完成度に関する不満も生じました。しかし、これらの困難は、バンドの結束を試す試練でもあったと言えるでしょう。

音楽性と歌詞：過去への回帰と新たな挑戦

『メフィストフェレスの肖像』は、初期の聖飢魔IIの世界観を彷彿とさせる楽曲が中心となっています。特に、浜田と大橋による楽曲は、その音楽性においても、過去の作品へのオマージュとも取れる要素が多く見られます。

しかし、このアプローチは、バンド内部に葛藤を生むことにも繋がりました。過去に縛られず、新たな音楽性を探求しようとしていたメンバーにとって、この方向性は必ずしも歓迎されるものではありませんでした。

それでも、本作にはメンバーそれぞれの個性が光る楽曲も含まれています。エース清水のボーカルがフィーチャーされた楽曲や、ルーク篁の作曲による力強い楽曲など、多様な音楽性が共存する作品となっています。

リリースと評価：賛否両論と新たな出発

アルバムは1996年6月21日にリリースされ、オリコンチャートでは最高19位を記録しました。メンバー間の評価は賛否両論でしたが、熱心なファンからは好評を得ました。

音楽情報サイト『CDジャーナル』は、レコード会社移籍や旧メンバー参加といった点を評価しつつ、聖飢魔IIのエンターテインメント性と演奏技術の高さも肯定的に評価しました。

『メフィストフェレスの肖像』は、聖飢魔IIにとって、困難な状況の中で制作された、複雑な感情が交錯する作品となりました。過去の栄光への回帰と、未来への模索。このアルバムは、バンドの転換期における葛藤と成長を象徴する作品と言えます。

収録曲 (例示)

メフィストフェレスの肖像
野獣
凍てついた街
悪魔のブルース
GREAT DEVOTION
HOLY BLOOD 〜闘いの血統〜
PAINT ME BLACK

スタッフクレジット (例示)

デーモン小暮：ボーカル
エース清水：ギター、ボーカル
Sgt.ルーク篁III世：ギター
ゼノン石川：ベース
ライデン湯沢：ドラムス
松崎雄一：サウンドプロデューサー
ナスティー平野：ディレクター

このアルバムは、聖飢魔IIというバンドの複雑な歴史の一断面を、音楽を通して鮮やかに描き出しています。

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