PONK!!

聖飢魔II『PONK!!』：転換期を象徴する異色のアルバム

1994年、日本のヘヴィメタルバンド聖飢魔IIは、8枚目のオリジナルアルバム『PONK!!』を発表した。このアルバムは、バンドの転換期、そして数々の困難を象徴する作品として、その後の活動に大きな影響を与えた。

複雑な背景：前作からの転換とスキャンダル

前作『恐怖のレストラン』から約1年9ヶ月ぶりとなる本作は、結成10周年という節目を迎えたバンドにとって、新たな一歩を踏み出すための試みであった。しかし、その背景には、バンド内外の複雑な状況があった。

まず、バンドは『恐怖のレストラン』の成功という点では、商業的にも、メンバーの満足度という点でも、大きな成果を得ることが出来なかった。『恐怖のレストラン』発表後に開催された1週間のイベントでは、各メンバーのソロ活動が活況を呈しており、特にデーモン小暮のソロ活動はCMやテレビ番組への出演などが多く、絶好調であった。このような状況の中、聖飢魔IIの音楽活動の方向性を見失っていた。

そのような状況の中、新たな試みとして、これまでの悪魔的な要素や音楽性を排除し、ポルカ、プログレッシブ・ロック、フォークソング、AORなど、多様な音楽性を導入するという大胆な方向転換が図られた。これは、バンドの新たな可能性を探る試みであり、過去の成功にとらわれない挑戦であった。しかし、この方向転換の影には、同年秋に発覚したデーモン小暮の女性問題という、大きなスキャンダルがつきまとっていた。このスキャンダルは、バンドのイメージに深刻な打撃を与え、アルバムの商業的な成功を阻む大きな要因となった。

ロンドン・レコーディング：環境変化と新たなサウンド

心機一転を図るため、本作のレコーディングはロンドンのアビー・ロード・スタジオで行われた。聖飢魔IIにとって初の海外レコーディングであり、メンバーはアビー・ロード・スタジオ周辺のフラットに滞在し、時間的な余裕を持ってレコーディングに臨んだ。

レコーディング期間は40日間と長く、これはレコード会社の大規模なサポートがあったからこそ実現できたものである。サウンド・プロデューサーとして、ルーク篁III世が中心となり、小暮の女性問題や、従来の音楽性からの脱却を目的とした、多様な音楽性を取り入れた作品となった。楽曲制作においては、小暮のCM出演など、彼が得意とするジャンル、ニューミュージックのような要素を取り入れる方向性が示された。

レコーディングには、海外のエンジニアが参加し、日本人エンジニアとは異なる視点や技術が導入されたことで、新たなサウンドが生まれる結果となった。しかし、海外レコーディングの経験不足や、楽器の持ち込みによる追加費用など、様々な困難も経験することになった。

音楽性とテーマ：日常への共感と内面への問いかけ

本作のテーマは、メンバーの得意分野を生かすこと、そして日常に共感できる音楽を作ることだった。ヘヴィメタルという枠にとらわれず、幅広いジャンルの音楽を取り入れ、聴く人の心に響くような、内面的な内容を表現することを目指した。

しかし、この新たな試みは、必ずしも好意的に受け止められたわけではない。これまでの聖飢魔IIのファンの中には、本作の作風を拒否反応を示す者もいた。スキャンダルとあいまって、本作は商業的には失敗作となり、オリコンチャートでは最高11位という結果に終わった。

リリースとその後：バンドの低迷と再評価

『PONK!!』は1994年7月1日にリリースされた。先行シングルとして「TEENAGE DREAM」と「闘う日本人」がリリースされた。しかし、スキャンダルの影響もあり、本作は商業的な成功を収めることは出来なかった。その後、聖飢魔IIはBMGビクターに移籍することになる。

しかし、時が経つにつれて、本作は再評価されるようになった。その多様な音楽性、そしてバンドの転換期を象徴する作品であることなどから、今では聖飢魔IIの隠れた名盤として、多くのファンに支持されている。

まとめ

『PONK!!』は、商業的には失敗作であったにもかかわらず、聖飢魔IIの歴史において重要な位置を占めるアルバムである。前作までの音楽性からの脱却、アビーロードスタジオでのレコーディング、そしてデーモン小暮のスキャンダルという、数々の困難を乗り越えて制作された本作は、バンドの新たな可能性を示唆すると共に、その後の活動に大きな影響を与えた。その後の活動が鈍化したものの、本作は現在では再評価され、聖飢魔IIの幅広い音楽性を示す作品として、高い評価を得ている。

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