メラントー

メラントー（古希: Μελανθώ, Melanthō）は、古代ギリシアの叙事詩人ホメーロスの代表作『オデュッセイアー』に登場する女性です。イタケーの王オデュッセウスの妻であり、貞淑で知られる王妃ペーネロペーに仕える下女の一人として描かれています。長母音を省略してメラントと表記されることもあります。

彼女はオデュッセウスの老僕ドリオスの娘であり、山羊飼いのメランティオスを兄に持ちます。幼い頃にペーネロペーに引き取られ、我が子のように深い愛情を注がれて育てられました。ペーネロペーはメラントーが求めるもの、例えば玩具なども与え、手厚く世話をしたと伝えられています。

しかし、メラントーはそのような恩恵にもかかわらず、ペーネロペーの苦境や悲しみを慮ることは一切ありませんでした。それどころか、ペーネロペーに執拗に求婚していた男たちの一人、エウリュマコスと親密な関係を結んでいました。彼女の態度は、仕えるべき主人に対する裏切りであり、その恩知らずな性質が強調されています。

オデュッセウスが長年の放浪の末、変装して故郷イタケーの館に戻った際、メラントーは彼を客人としてではなく、見すぼらしい物乞いと見なして侮辱しました。彼女は、オデュッセウスに対して、鍛冶屋や集会所のような場所で寝るべきだと冷たく言い放ち、もしここに留まるなら、他の強い男たちに叩きのめされて血まみれで追い出されるだろうと罵りました。これに対し、オデュッセウスは彼女を厳しく見据え、「牝犬」と呼び、息子のテーレマコスに命じて手足をバラバラにさせることもできると脅しました。この言葉に、メラントーをはじめとする他の下女たちは恐れをなし、慌ててその場から逃げ去りました。

その後も、メラントーは懲りることなく、再びオデュッセウスを罵倒しました。それはペーネロペーが、変装したオデュッセウスから夫の消息を聞き出そうとしていた、非常に重要な場面でのことでした。メラントーはオデュッセウスに対し、まだ館にいて迷惑をかけるつもりかと非難し、早く出て行って施しを受けた物を食べて生きるか、さもなければ焼け木杭で殴り倒されて外に放り出されるだろうと暴言を吐きました。これを聞いたペーネロペーは激怒し、メラントーの厚かましさを叱責しました。夫の消息を知りたいという自身の意図はメラントーにも伝えていたはずだと指摘し、さらにメラントーがその命をもって償わなければならないほどの重罪を犯していることに気づいている、とも告げました。これは、彼女が求婚者と関係を持っていたことや、主人に対する敬意を欠く言動に対する重大な警告でした。

最終的に、オデュッセウスが正体を現して求婚者たちを討伐した後、彼らと関係を持っていた下女たちもまた処罰の対象となりました。メラントーもその一人として、求婚者たちの情婦であった他の下女たちと共に、オデュッセウスの命令で涙ながらに求婚者たちの死体を運び出し、広間を清掃させられました。清掃が終わると、オデュッセウスは息子テーレマコスに、これらの下女たちを剣で斬り殺すよう命じました。

しかし、テーレマコスは、これらの下女たちが自分自身と母ペーネロペーを公然と侮辱し、求婚者たちと戯れていたことを決して許しませんでした。彼は、剣で一瞬のうちに殺すよりも、より屈辱的で惨めな死を与えようと考えました。そこでテーレマコスは、船のマストから太いロープを渡し、下女たちの首を括って吊るし上げました。こうして、ペーネロペーの恩を裏切り、主人に仕える者としての分を弁えなかったメラントーは、他の不忠実な下女たちと共に非業の最期を遂げたのでした。

なお、ギリシア神話には、この『オデュッセイアー』に登場するメラントー以外にも同名の女性が複数存在します。例えば、デウカリオーンあるいはプローテウスの娘で、海神ポセイドーンとの間にデルポスをもうけた女性や、クリアソスの妻で、ポルバースとクレオボイアの母となった女性が挙げられますが、『オデュッセイアー』におけるメラントーとは別人です。

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