ドリオス

ギリシア神話におけるドリオス（古希: Δολίος）は、イタケー島の王オデュッセウスに長年仕えた忠実な召使いである。特に王宮の広大な果樹園の管理を任されており、その生涯の多くをオデュッセウスとその家族に捧げた。

ドリオスの出自はスパルタに遡る。彼はもともと、オデュッセウスの妻ペーネロペーの父にあたるスパルタ王イーカリオスに仕える召使いであった。イーカリオスが自身の娘ペーネロペーをオデュッセウスのもとに嫁がせる際、ペーネロペーに付き従い、新天地での生活を支えるためにドリオスを与えたとされている。こうしてドリオスはペーネロペーと共に海を渡り、イタケー島に移り住み、オデュッセウスの王宮の一員となったのである。

イタケー島でドリオスはオデュッセウスの指示のもと、王宮を取り囲む広大な果樹園の管理を一手に引き受けた。果物やオリーブの栽培、ブドウ畑の手入れなど、日々の勤めを通して、彼は王家の生活を支える重要な役割を担っていた。

私生活では、シケリア島出身の女性と結婚し、複数の子供をもうけた。その中でも特に知られているのは、息子メランティオスと娘メラントーである。しかし、悲劇的な運命により、この二人の子供は後にオデュッセウスの手によって命を落とすこととなる。

トロイア戦争からの長きにわたるオデュッセウスの不在中、ドリオスは王宮に仕え続けた。そして、ついにオデュッセウスが乞食に身をやつして帰還し、王宮を占拠していたペーネロペーの求婚者たちを討伐した後のことであった。自らの主人であるオデュッセウスが目の前に姿を現したとき、ドリオスは突然の再会に呆然と立ち尽くし、しばらく言葉を失った。しかし、オデュッセウスがその正体を明かし、優しく声をかけると、ドリオスは抑えきれない喜びを全身で表現した。両手を広げてオデュッセウスのもとへ駆け寄り、涙ながらに抱きつき、主人の無事な帰還を心から祝福したのである。その姿は、長年の忠誠と深い愛情を示すものであった。

しかし、平和は長く続かなかった。オデュッセウスが求婚者たちを討伐したことに対し、彼らの家族が復讐を誓い、武装して王宮に迫ってきたのである。この最後の戦いにおいて、ドリオスは再びオデュッセウスのために立ち上がった。既に息子メランティオスと娘メラントーをオデュッセウスに殺されていたにも関わらず、残った他の息子たちと共に武具を身につけ、迷うことなく主人の側に立って戦ったのである。ドリオスとその息子たちの加勢は、オデュッセウスにとって心強いものであった。ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』において、ドリオスはまさに忠実な召使いの模範として描かれており、オデュッセウスとその家族への献身的な姿勢が物語の中で重要な役割を果たしている。

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