メルセデス・ベンツ・W116

メルセデス・ベンツW116：安全と快適性を極めた初代Sクラス

メルセデス・ベンツW116は、1972年から1980年にかけて製造された、同社が初めてSクラスと正式に名付けた高級セダンです。それ以前からSクラスと呼ばれる同クラスのセダンは存在していましたが、W116は公式にその名を冠した最初のモデルとなりました。

革新的な安全設計と快適性

W116は、単なる高級セダンではありませんでした。当時としては画期的な安全技術と、乗員のための快適性を追求した設計が大きな特徴です。先代モデルと比較してボディサイズは大型化しましたが、安全基準の強化により室内空間は若干狭くなっています。しかし、その分、乗員の安全確保に多くの工夫が凝らされています。

堅牢なボディと先進技術の融合

W116のボディ構造には、ダイムラー・ベンツが特許を持つセーフティセル構造が採用されました。これは乗員空間を特に強化し、衝突時の衝撃を車体前後で吸収する設計です。さらに、燃料タンクはリアアクスル上に配置され、追突時の危険性を軽減。ピラーとルーフの強化により、横転時にも乗員の安全を確保しています。

世界で初めて乗用車にABS（アンチロックブレーキシステム）がオプション設定されたのもW116です。これはボッシュ社製のシステムで、当時の最先端技術を惜しみなく投入した証です。

運転のしやすさと快適な空間

W116の内装は、装飾を排したシンプルで機能的なデザインが特徴です。スイッチ類は操作性と誤操作防止を考慮して配置され、メーター類は視認性を最優先した設計です。ドライバーが運転に集中できるよう、細部まで配慮されています。

ダッシュボードは厚いパッドで覆われ、突起物を極力減らすことで、衝突時の乗員への傷害を軽減します。ステアリングホイールは4本スポークタイプで、衝撃吸収式のボスとショックアブソーバーを装備。大型シートは快適性とホールド性を両立し、シート前端の形状にも工夫が凝らされています。

視界の確保にも配慮が行き届いており、大型の窓ガラス、ルームミラー、ドアミラーが採用されています。独特のワイパーシステムは、雨滴の78％を拭き取る性能を誇り、高速走行時にも浮き上がらない設計です。ウィンドウディフレクターやレインランネルも装備され、悪天候時でも良好な視界を確保します。強力なブロワーを備えたカーエアコンは、車内空気を1分間に3回入れ替えることができ、寒冷時にはフロントドア内部にも暖気が供給されます。

多様なモデルバリエーション

W116は、様々なニーズに対応したモデルバリエーションを展開していました。燃料噴射式エンジン（モデル名に「E」が付く）や、後席空間を拡大したロングボディ仕様（モデル名末尾に「L」が付く）が用意されました。

さらに、6.9リッターV型8気筒エンジンを搭載した高性能モデル「450SEL 6.9」や、経済的なターボディーゼルモデルもラインナップに加わりました。クーペやカブリオレは設定されていませんでした。

1975年の排出ガス規制への対応

1975年の欧州排出ガス規制強化に対応するため、一部モデルではパワーダウンを余儀なくされました。しかし、1978年には新型燃料噴射装置の採用により、本来のパワーを取り戻しています。アメリカ市場向けには300SDセダンが設定されました。

450SEL 6.9：W116の頂点

「450SEL 6.9」は、先代モデル「300SEL 6.3」の後継となる、W116シリーズの最上級モデルです。メルセデス・ベンツの乗用車用エンジンとしては戦後最大級となる6.9リッターV型8気筒エンジンを搭載し、シトロエン方式のハイドロニューマチックサスペンションを採用していました。

W116の遺産

W116は、473,035台という高い生産台数を記録し、1979年に後継モデルW126が登場するまで販売を続けました。その安全性、快適性、そして革新的な技術は、後のメルセデス・ベンツのモデルにも大きな影響を与え、同社のブランドイメージを確立する上で重要な役割を果たしたと言えるでしょう。ヨーロッパ、北米、アジア、中東、アフリカ、オセアニアと、世界中で販売されたグローバルモデルでもありました。

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