メルセデス・ベンツ・W125

メルセデス・ベンツW125：伝説のシルバーアロー

1937年、グランプリ界に衝撃を与えたレーシングカー、メルセデス・ベンツW125。ルドルフ・ウーレンハウトの手によって生み出されたこのマシンは、その圧倒的なパワーとスピードで、モータースポーツ史に名を刻みました。

驚異のパワーと速度

W125の心臓部は、スーパーチャージャー付き5.6リッター直列8気筒エンジン。決勝レース仕様で最大595馬力を発揮し、テスト仕様では637馬力にも達しました。低回転域からの力強いトルクも特徴で、2,000rpmでも245馬力を発生。この驚異的なパワーは、1960年代半ばまで、世界最強のレーシングカーとして君臨する地位を確立しました。また、300km/hを優に超える最高速度は、当時としては異次元の世界でした。特に、アウスで開催されたレースでは、ストリームラインボディによりそのポテンシャルを最大限に発揮し、驚異的なスピードを記録しました。さらに、最高速度記録に挑戦するために改造されたW125は、5,576.75cc V型12気筒エンジンを搭載し、432.7km/hという驚異的な速度を記録しています。ただし、この記録は、規定重量超過のためグランプリ参戦は叶いませんでした。

堅牢な設計と革新的な技術

W125の開発には、メルセデス・ベンツ社内に新設されたレース部門が尽力しました。市販車部門出身のウーレンハウトがリーダーを務め、過去のレース経験は無いものの、市販車によるニュルブルクリンクでの走行経験から得られた知識を活かし、設計を主導しました。

前モデルであるW25の課題を克服するため、W125では、高い剛性を持つチューブラーフレーム構造と伸縮性のあるサスペンションが採用されました。これは、ウーレンハウトがW25のテスト走行中に経験した、極端に硬いサスペンションによる路面追従性の悪さへの対策でした。ニッケルクロムモリブデン鋼製の楕円チューブを使用したシャシーは、高い剛性を実現しました。また、アルミニウム製ボディは未塗装のままアルミ地を活かした銀色をしており、後の「シルバーアロー」の愛称の起源となっています。

エンジンは、排気量無制限のレギュレーションを最大限に活かした、5.6Lの直列8気筒OHCエンジン「M125」を搭載。ルーツ式スーパーチャージャーにより過給され、632lb-ft(857N・m)ものトルクを発生しました。40%のメチルアルコールを含む特殊な混合燃料を使用し、5,800rpmで560～640馬力を発揮しました。トランスミッションは、信頼性の高い常時噛み合い式4速マニュアルを採用。W25の選択摺動式から改良された点は、ギアの切り替え時のスムーズさと信頼性を向上させる上で重要な要素でした。

グランプリでの活躍と栄光

1937年シーズン、W125は数々のレースで輝かしい成績を残しました。トリポリグランプリでのデビューウィンを皮切りに、アウス、ニュルブルクリンク、ベルギー、ドイツ、モナコ、スイス、そしてイタリアグランプリと、ヨーロッパ選手権を席巻しました。特に、ヨーロッパ選手権では、ルドルフ・カラツィオラがチャンピオンに輝き、チームメイトのマンフレート・フォン・ブラウヒッチュ、クリスチャン・カウツ、ヘルマン・ラングが2位から4位を独占するという、メルセデス・ベンツの圧倒的な勝利となりました。

W125は、最高速度を追求したストリームライナー仕様も存在しました。アウスでのレースでは、通常のW125よりも25km/h高速な最高速度を達成しましたが、ギアボックストラブルによりリタイアという結果に終わりました。他にも、ヴァンダービルトカップやコッパ・アチェルボなどにも参戦。様々なレースで経験を重ね、改良を繰り返すことで、そのパフォーマンスはさらに研ぎ澄まされていきました。

レギュレーション変更と終焉

1938年、グランプリのレギュレーションが変更され、排気量制限が導入されました。W125は、この新しいレギュレーションに適合できず、メルセデス・ベンツは後継車となるW154の開発に注力しました。これにより、W125のグランプリでの活躍は幕を閉じました。しかし、その圧倒的なパワーとスピード、そして数々の勝利は、モータースポーツ史に永遠に刻まれる偉業として、現在も語り継がれています。

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