メルメロス

ギリシア神話におけるメルメロス：悲劇的な運命を辿った英雄の息子

メルメロスは、ギリシア神話において、イアーソーンとコルキス出身の魔女メーデイアの息子として知られています。彼の生涯は、悲劇的な出来事によって彩られており、複数の文献から異なる物語が伝えられています。

アポロドーロスによると、イアーソーンとメーデイアはコリントスで10年間幸せに暮らした後、イアーソーンがコリントス王クレオーンの娘グラウケーと結婚したことにより、メーデイアは激しい怒りに燃えます。復讐として、メーデイアはグラウケーに毒を塗った衣を贈り、グラウケーとクレオーン王は炎に焼かれて命を落としました。さらに、メーデイアはメルメロスと双子の兄弟ペレースを殺害し、アテーナイへと逃亡しました。

ヒュギーヌスの記述では、イアーソーンがコリントスの人々から非難されたことにより、グラウケーとの結婚に至ったとされています。メーデイアはグラウケーに魔法の冠を贈らせますが、その冠は毒が塗られており、グラウケー、イアーソーン、クレオーン王が炎に包まれて死亡します。その後、メーデイアはメルメロスとペレースを殺害し、コリントスを去りました。

パウサニアスは、メルメロスとペレースがグラウケーに毒の贈り物を持っていったことが、彼らの死につながったと伝えています。グラウケーが死亡したのち、コリントスの人々はメルメロスとペレースを石打ち刑にしました。2人の亡霊はその後もコリントスの子供たちを殺害し続け、毎年犠牲が捧げられました。この供儀は、前146年のコリントスの戦いまで続いたとされています。また、メルメロスとペレースの合葬墓がコリントスにあったとも記されています。別説では、メーデイアが子供たちを不死にしようとヘーラーの神殿に隠したところ、イアーソーンに見つかり、コリントスを去ったとも伝えられています。さらに、メルメロスが狩の最中にライオンに襲われて死亡したという説もあります。

このように、メルメロスの死に関する記述は複数存在し、それぞれの文献で異なる詳細が語られています。彼の最期は悲劇的であり、母メーデイアの復讐劇の犠牲になったと解釈するのが一般的です。しかし、彼の死後も、亡霊となってコリントスの人々に影響を与え続けたという伝承は、メルメロスの存在が神話の中で決して忘れ去られたものではなかったことを示唆しています。

また、メルメロスという名前は、この神話以外にも複数の文献に現れます。ケンタウロス、トロイア戦争で戦ったトロイア兵、そして『オデュッセイア』に登場するイーロスの父など、様々な人物がメルメロスという名前で呼ばれています。これらのメルメロスと、イアーソーンとメーデイアの息子であるメルメロスとの関係は不明です。しかし、同じ名前を持つ複数の登場人物の存在は、この名がギリシア神話において一定の意味を持っていた可能性を示唆しています。

メルメロスの物語は、悲劇的な家族の物語、復讐、そして運命の残酷さといったテーマを鮮やかに浮かび上がらせています。彼の短い生涯は、ギリシア神話における人間の業、神々の怒り、そして不可避的な運命といった複雑な要素を深く反映していると言えるでしょう。

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