メレトス

メレトス：ソクラテス告発の影に潜む詩人

紀元前5世紀から4世紀にかけて生きたアテナイの詩人、メレトス。彼の名は、古代ギリシャにおける最も有名な裁判の一つ、ソクラテス裁判に深く関わっていることで知られています。プラトンの著作『ソクラテスの弁明』『エウテュプロン』『テアイテトス』などから、その人物像や事件への関与について知ることができます。

メレトスは、ソクラテスを「涜神罪」で告発した中心人物の一人でした。彼を単独でソクラテスに罪を着せたわけではない点は重要です。政治家のアニュトスや、民衆扇動家のリュコンといった有力者らと共に、メレトスはソクラテスを糾弾したのです。プラトンは、彼らを詩人の代表として位置づけています。このことは、当時アテナイにおいて、詩人が世論形成に一定の影響力を持っていたことを示唆しています。

プラトンの『エウテュプロン』は、メレトスの外見を詳細に描写しています。それによると、彼はピットス区出身の比較的無名な若者で、真っ直ぐな髪、薄い髭、鉤鼻が特徴だったとされています。こうした具体的な描写は、メレトスという人物をより身近に感じさせます。また、プラトンの著作は、メレトスがソクラテスの弁明の法廷で直接、ソクラテスと対峙した様子も伝えています。ソクラテスは法廷で彼を相手に巧みな議論を展開し、そのやり取りは『ソクラテスの弁明』に詳細に記録されています。メレトスは、ソクラテスの弁論の前に立った、数少ない人物の一人だったと言えるでしょう。

興味深いことに、ディオゲネス・ラエルティオスの『ギリシア哲学者列伝』は、ソクラテスの死後、アテナイ人がメレトスに対する後悔の念を抱き、彼に死刑判決を下したと記しています。この記述は、ソクラテスの処刑に対する世論の複雑な変化を示唆するものです。ソクラテス死後、アテナイの人々は、彼を告発した者たちへの怒りを向け始めた可能性があります。メレトスの死刑判決は、この世論の変化が実際に裁判に影響を与えた証拠と言えるでしょう。ただし、この記述の信憑性については、他の史料との照合が必要となります。

メレトスは、ソクラテスの死を招いた直接的な原因を作った人物の一人であるだけでなく、アテナイの政治や社会情勢を映す重要な存在です。彼の行動やその後の人生は、現代の私たちにとっても、正義や世論、個人の責任といった難しい問題について考えるきっかけを与えてくれるでしょう。彼の名は、ソクラテスの哲学を理解する上で、決して無視できない重要な要素なのです。

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