モカエキスプレス

モカエキスプレス：家庭で楽しむイタリアの味

モカエキスプレスは、イタリアのビアレッティ社が開発した直火式エスプレッソメーカーです。その特徴は、沸騰したお湯の蒸気圧を利用してコーヒーを抽出する点にあります。一般的には「モカポット」や「エスプレッソポット」とも呼ばれ、イタリア語では「マッキネッタ」や「カッフェッティエラ」という愛称で親しまれています。

歴史と特徴

モカエキスプレスは、アルフォンソ・ビアレッティによって発明されました。初期のモデルは、ベークライト製の柄が付いたアルミニウム製でした。ビアレッティ社は、モカエキスプレスの名称で代表的なモデルを販売し続けており、現在では1杯用から18杯用まで様々なサイズがあります。

多くのメーカーがビアレッティ社のモカエキスプレスを原型としたモカポットを製造していますが、各社の製品は外観が異なっていても、ガスケットのサイズは共通していることが多く、ビアレッティ社の補修部品が使用できる場合があります。

ビアレッティ社自身は、この器具をエスプレッソメーカーではなくコーヒーメーカーと呼んでいます。ヨーロッパでは広く普及しており、ロンドンのサイエンス・ミュージアムなどの博物館にも展示されるほど、そのデザインはアイコン的な存在となっています。特にビアレッティ社のあるイタリアでは、ほとんどの家庭にモカエキスプレスがあり、「マキネッタ」といえばモカエキスプレスを指すほどです。

モカコーヒーとは

イタリアで「エスプレッソ」と呼ばれるのは、マシンで高圧抽出したコーヒーのみです。モカエキスプレスのような直火式器具で作られたコーヒーは「モカコーヒー」と呼ばれ、エスプレッソとは区別されます。また、英語では「直火式エスプレッソ（stovetop espresso）」と表現されることもあります。

ここでいう「モカ」は、コーヒー産地のモカ（Mocha）を指すものではありません。

モカエキスプレスの使い方

モカエキスプレスでコーヒーを抽出する手順は以下の通りです。

1. ボイラー部（下部のタンク）に水を入れます。
2. 漏斗状の金属製フィルターを設置します。
3. 細挽き、または微粉に挽いたコーヒー豆をフィルターに充填します。
4. 本体上部を台座部にしっかりと固定します。
5. 本体を熱源（ガスコンロやIHヒーターなど）で加熱します。

加熱すると、ボイラー部内の水が蒸発し、蒸気圧で熱湯がフィルターを通って本体上部にコーヒーが抽出されます。パーコレーターとは異なり、器具を熱源に置いたまま煮詰まることはありませんが、ボイラーが空焚きになるのを防ぐため、早めに熱源から降ろすようにしましょう。

ボイラー部がほぼ空になると、蒸気の泡が上昇する湯と混ざり合い、独特のゴボゴボという音がします。この音がしたら、すぐに火から降ろすのが良いタイミングです。そうすると、上部室には半分程度のコーヒーが抽出されます。

モカエキスプレスのメンテナンス

モカエキスプレスを長く使うためには、定期的なメンテナンスが必要です。

- ゴム製シールとフィルターの交換
- 安全弁が固着していないかの確認

使用後は、漏斗管、フィルター、上部室の内側に残ったコーヒーオイルの膜を、洗い流す程度に留めておきましょう。この薄い膜が、コーヒーが直接アルミニウムに触れるのを防ぎ、金属臭が移るのを防ぎます。

サイズと種類

モカエキスプレスのサイズは、作れるコーヒーの量によって異なり、50mlのエスプレッソカップ何杯分かで区別されます。ビアレッティ社では、1杯用から18杯用まで様々なサイズのモカエキスプレスを製造しています。

モカコーヒーの特性

モカコーヒーの風味は、豆の品種、焙煎度合い、挽き具合、水の成分、加熱度合いによって大きく左右されます。モカポットは、直火式エスプレッソメーカーと呼ばれることがありますが、エスプレッソマシンよりも抽出圧が低く、1〜2気圧程度で抽出されます。したがって、エスプレッソとは異なる風味特性を持っています。

その他のモカエキスプレス

モカエキスプレスには、オリジナルのアルミニウム製のものだけでなく、ステンレス製や電気式も存在します。

- ブリッカ：ビアレッティ社の改良型で、圧力を高めてクレマを作りやすくしたモデルです。
- ムッカエキスプレス：同じくビアレッティ社の改良型で、コーヒーと牛乳を同時に抽出してカフェラテのような飲み物を作ることができます。

その他のブランド

モカエキスプレスを製造しているブランドは、ビアレッティ社の他にも、以下のようなメーカーがあります。

- アレッシィ
- イルサ
- GSI
- ペゼッティ

モカエキスプレスへの愛

モカエキスプレスの開発者の息子であるレナート・ビアレッティは、モカエキスプレスを世界中に広めた立役者です。彼は2016年に亡くなりましたが、その遺灰は、生前の希望通り、ビアレッティ社最大の18杯用モカエキスプレスに納められました。このエピソードからも、モカエキスプレスへの深い愛情が感じられます。

参照情報

モカエキスプレスは、そのシンプルながらも洗練されたデザインと、手軽に美味しいコーヒーを楽しめることから、世界中で愛され続けています。ぜひ、ご自宅でモカエキスプレスを使って、イタリアの味を体験してみてください。

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