モシン・ナガンM1891/30

モシン・ナガンM1891/30：ソ連を代表するボルトアクション小銃

モシン・ナガンM1891/30は、ソビエト連邦で開発されたボルトアクション方式の小銃であり、第二次世界大戦中にソ連赤軍の主力小銃として、また狙撃銃としても広く使用されました。帝政ロシア時代に開発されたM1891を改良したものであり、その開発から運用、派生型までを詳しく解説します。

開発の経緯

1930年代以前、ソ連赤軍の主力小銃は帝政ロシア時代から使用されていたM1891でした。M1891は、セルゲイ・モシン大佐とベルギーのナガン兄弟によって開発された5連発ボルトアクションライフルであり、当時の単発式小銃に比べて高い火力を誇りました。しかし、全長が長く、戦場での取り回しに難がありました。

改良は続けられ、照星覆いの追加や装弾クリップの単純化などが行われましたが、距離表尺に帝政ロシア時代の単位であるアルシンが使用されていたため、兵士からの評判は良くありませんでした。赤軍内部でもM1891の陳腐化が認識され、新型小銃の開発が求められるようになりました。

1920年代後半から改良型の開発が始まり、1930年4月28日、距離表尺をメートル法に変更し、コストダウンを図ったM1891/30が制式採用され、生産が開始されました。

M1891/30の概要

M1891/30は、M1891の問題点を改良した小銃であり、機関部の構造や使用弾薬はM1891から変更されていません。新規に製造されたものと、既存のM1891を改修したものの2種類が存在します。

銃身が約10cm短縮され、M1891の騎兵銃モデルであるドラグーンライフルとほぼ同じ長さになりました。距離表尺はアルシンからメートル法に変更され、リア・サイトとフロント・サイトが強化され、フロント・サイトには筒状のカバーが追加されました。

生産簡略化のため、機関部前方にある銃身受部は六角形から円筒形に変更されましたが、M1891からの改修型は六角形のままとなっています。木部は工場や製造時期によって単材製と合板製の2種類があります。

銃剣はM1891と同じスパイク型を使用し、第二次大戦中のソ連軍では着剣状態で携行することが基本とされていました。照準も着剣状態に合わせて調整されているため、銃剣を外して射撃する場合は再調整が必要でした。

狙撃銃型

1930年代に入ると、ソ連赤軍は狙撃銃に注目し、M1891/30をベースとした狙撃銃型を開発しました。狙撃銃型は、通常の小銃型よりも精密な銃身を使用し、スコープの装着のためにボルトハンドルが下向きに曲げられています。

当初は、カール・ツァイスの工場設備を導入して開発された3.87倍のPE型スコープが使用されました。その後、PEM型スコープを経て、最終的には3.5倍のPU型スコープが搭載されるようになりました。PU型スコープは、トカレフM1940半自動小銃にも使用されたもので、軽量かつ低コストで実用性が高かったため、M1891/30狙撃銃の決定版となりました。

サプレッサーを装着した狙撃銃型も存在し、パルチザン実包（減装弾）を使用していました。

騎兵銃型

M1891/30の騎兵銃型として、1939年2月26日にM1938が制定されました。M1938は、基本構造はM1891/30と同じですが、全長が短縮され、スパイク型銃剣は装着できませんでした。主に騎兵、通信兵、砲兵で使用されました。

第二次世界大戦での実戦経験から、ソ連赤軍はM1891/30の全長が長すぎることに気付き、白兵戦を重視する観点から、折り畳み式の銃剣を備えたM1944が開発されました。M1944は、銃口右側にスパイク型銃剣を装着し、普段は側面に折り畳んで収納します。これにより、狭い戦場での取り回しが容易になり、白兵戦への移行も迅速に行えるようになりました。

運用と戦後

M1891/30は、第二次世界大戦を通じてソ連赤軍の主力小銃として活躍しました。ソ連のプロパガンダでは狙撃銃型の写真がよく使用されたため、一般的には狙撃銃としてのイメージが強いようです。

戦後、SKS半自動カービンやAK-47自動小銃の登場により、第一線での使用は減少しましたが、M1891/30の狙撃銃型は、1960年代までソ連軍の制式狙撃銃として使用され続けました。

大量に製造されたM1891/30は、旧ソ連諸国から海外へ多数流出し、現在でも紛争地域などで使用されています。

民間での使用

ボルトアクション銃としての特性から、狩猟ライフルやスポーツライフルとしても使用されています。ソ連崩壊後には、レプリカモデルも製造されています。

バリエーション

M1891/30：小銃型と狙撃銃型が存在
M1938：銃剣を装着できない騎兵銃型
M1944：折り畳み式の銃剣を装備した騎兵銃型
M1891/59：M1938の再生産型
КО-91/30：モロト社が製造するM1891/30のレプリカ
53式歩騎槍：中国でライセンス生産されたM1944のコピー

M1891/30を使用した有名な狙撃手

ヴァシリ・ザイツェフ
リュドミラ・パヴリチェンコ

まとめ

モシン・ナガンM1891/30は、その長い歴史と数々の戦場での活躍から、ソ連を代表する小銃として知られています。その堅牢な構造と信頼性の高さは、今なお多くの人々に愛されています。

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