モスクワ・ニュース

モスクワ・ニュースの歴史

『モスクワ・ニュース』（The Moscow News）は、1930年に創刊されたロシアで最も古い英字新聞です。その歴史は、ソビエト連邦時代からロシア連邦時代、そして廃刊に至るまで、激動の時代を映し出しています。

ソビエト連邦時代

創刊は、アメリカの社会主義者アンナ・ルイーズ・ストロングによるものでした。彼女は、1919年のシアトル・ゼネラル・ストライキの指導者の一人でした。スターリン率いる共産党指導部は、この新聞を社会主義思想を世界に広めるための国際的な媒体として承認しました。当初は英語のみでしたが、その後、フランス語、ドイツ語、スペイン語など、様々な言語で発行されるようになり、国際的な影響力を持ちました。

初代外信部長には、イギリス共産主義者のローズ・コーエンが就任しましたが、1937年に逮捕され処刑されました。また、1949年には編集長のミハイル・ボロディンが逮捕され、その後、『モスクワ・ニュース』は一時閉鎖されました。

1956年、新聞はソビエト連邦共産党の監督下で復刊しました。1980年代には、ゲンナディ・ゲラシモフ編集長のもとで、アメリカ人の平和主義者ボブ・マイヤーソンが校閲者として迎えられました。彼はソ連で働く唯一のアメリカ人として、新聞社に貢献しました。

1986年、エゴール・ヤコブレフが編集長に就任すると、ゴルバチョフ政権のグラスノスチ（情報公開）とペレストロイカ（改革）の波に乗り、タブーとされていた問題にも積極的に切り込むようになりました。その結果、一部の共産主義者から「イエロー・プレス」と批判されることもありましたが、グラスノスチの自由を体現する新聞として、多くの人々に支持されました。最盛期には週100万部が発行され、プーシキン広場の本社前には朝から買い求める人々で賑わいました。

ロシア連邦時代

2003年、売上減少に苦しんでいた『モスクワ・ニュース』は、ユコス石油の所有者であるミハイル・ホドルコフスキーに買収され、率直なジャーナリスト、エフゲニー・キセリョフを雇いました。しかし、ベテランジャーナリストの解雇やオーナーの交代など、様々な問題が起きました。その後、所有者は何度も変わり、2007年にはRIAノーボスチの傘下に入りました。この時期には、『モスコフスキエ・ノーヴォスチ』からの翻訳記事も多く掲載されました。

2007年1月から9月まではアンソニー・ルイスが管理し、新聞の形態やレイアウト、フォントなどが刷新されました。また、国内外のコラムニストが登場し、地域ニュースやスポーツ記事も充実しました。モスクワの事業所で無料配布され、キオスクでも販売されるなど、読者層を広げる努力も行われました。2007年9月から2009年2月まではロバート・ブリッジが編集長を務めました。

終焉

2012年夏には発行頻度が落ち、週刊から隔週刊になりました。ニュースや政治セクションはより深く掘り下げられるようになり、広告収入で運営され、無料で配布されました。しかし、2014年1月23日、紙媒体での発行は中止され、ウェブメディアへと移行しました。そして同年3月14日、親会社であるRIAノーボスチの再編に伴い、ウェブサイトやSNSの更新も停止されました。最後の編集長であるナターリヤ・アントノワは、「ロシアについてあるニュアンスで書くと、あなたを混乱させ多くの怒りを買うかもしれない。最初はあなたは怖くなり、次にこれに怒り、ついには慣れてしまうだろう」と、惜別の言葉を残しました。

1930年から2014年までの『モスクワ・ニュース』の紙面は、現在East View社のデジタルアーカイブで閲覧することができます。

歴代編集長

1932年–1949年: ミハイル・ボロディン
1983年–1986年: ゲンナディ・ゲラシモフ
1986年–1991年: エゴール・ヤコブレフ
1991年–1995年: レン・カルピンスキー
1995年–2003年: ヴィクトル・ロシャク
2003年–2005年: エフゲニー・キセリョフ
2006年–2007年: ヴィタリー・トレチャコフ
2007年–2009年: ロバート・ブリッジ
* –2014年: ナターリヤ・アントノワ

『モスクワ・ニュース』は、その激動の歴史の中で、社会主義の宣伝媒体から情報公開の先駆けへと変貌を遂げ、ロシアのジャーナリズム史に大きな足跡を残しました。その廃刊は、ロシアにおけるメディアの自由の難しさを示す出来事として記憶されています。

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