モステクノロジー

モステクノロジー

モステクノロジー（MOS Technology, Inc.）は、かつてアメリカ合衆国に存在した半導体メーカーです。同社は特に、歴史的なマイクロプロセッサである「6502」の開発と製造を行ったことで知られています。名前が似ているMostekという企業がありますが、これはモステクノロジーとは無関係です。

沿革

モステクノロジーは、テキサス・インスツルメンツ（TI）が製造していた電卓とその中核をなすチップのセカンドソース（他社が設計・製造した製品を別の企業が合法的に製造・販売すること）供給元としてスタートしました。一時期、アタリ社向けにカスタム仕様のチップ「PONG」も製造しています。電卓市場が拡大するにつれて、モステクノロジーはコモドール社との結びつきを強めていきました。コモドールはモステクノロジーの半導体製品を大量に購入していたのです。

1975年、モトローラの「MC6800」プロセッサ開発に関わっていた一部の設計者が、そのリリース直後にモステクノロジーへ移籍しました。当時の知的財産権の概念はまだ未成熟だったため、彼らは新しいチップの開発に着手しました。その結果生まれたのが「6501」マイクロプロセッサです。このチップは、モトローラの6800とピン配置を含め非常に似ていましたが、設計をよりシンプルにすることで、性能を最大4倍に向上させていました。

独自技術による優位性

モステクノロジーには、競争上の大きな強みがありました。それは、完成した集積回路製造用のマスクパターンを後から修正できるという、当時としては珍しい技術です。半導体の製造工程では、設計データから作られたマスクを使ってシリコンウェハーにパターンを焼き付けますが、このマスクにバグや写真縮小工程での微細な傷が入ることがあります。これにより、製造されたチップの中に動作しないものが一定数発生します。製造された全チップの中で正常に動作する割合を「歩留まり率」と呼びますが、これは製品コストに直結します。モステクノロジーのマスク修正技術は、製造工程の初期段階でマスクの品質を高め、歩留まり率を大幅に向上させることが可能でした。この技術のおかげで、同社は競合製品よりもはるかに低い価格でチップを提供できたのです。

6502ファミリーの誕生と成功

6501が発表されると、モトローラは即座に法的措置を取りました。6501自体に6800とのソフトウェア互換性はありませんでしたが、ピン配置が同じだったため、6800向けに設計されたマザーボードに物理的に挿入して使用することができたからです。この訴訟により6501の販売は停止され、最終的にモステクノロジーが20万米ドルを支払うことで決着するまでに時間を要しました。

その間に、モステクノロジーは1975年に新しいマイクロプロセッサ「6502」を市場に投入しました。動作周波数は1MHz、価格はわずか25米ドルでした。6502は、モトローラの6800やインテルの8080、ザイログのZ80といった当時の競合チップと比較して、より高速で、安価で、開発者にとって使いやすい設計でした。6501とは異なり6800とのピン互換性は失われましたが、その圧倒的な低価格は大きな魅力となり、販売数で6800を追い抜くほどの成功を収めました。

1975年の見本市で初めて披露された際、そのあまりの安さに、詐欺ではないかと疑われたほどでした。これは、競合他社がモステクノロジー独自のマスク技術を知らず、一般的な歩留まり率を前提にコストを計算すると、25ドルでは採算が取れないと考えたためです。同じ見本市では、モトローラとインテルが対抗して自社チップの価格を下げる発表を行いました。これにより、6502が正当な製品であることが証明される形となり、見本市終了までに用意されていたサンプル品は全てバイヤーたちに持ち去られました。

6502は当時の最も人気のあるマイクロプロセッサの一つとなり、アタリ、アップルコンピュータ、コモドールなど、数多くのコンピュータメーカーに採用されました。多くの企業がモステクノロジーからライセンス供与を受けて、650xシリーズの互換チップを製造しました。

モステクノロジーは、6502の動作を示すデモンストレーションとして、シンプルなワンボードコンピュータキット「KIM-1」を開発しました。電卓事業の先行きが見え始めていたコモドール社はKIM-1に着目し、ディスプレイやキーボードを追加してケースに収めた製品「Commodore PET」として販売し、これも成功を収めました。しかし、モトローラから移籍してきた初期の設計者たちの多くは、コモドール社との強い関係性を嫌って、次第に会社を離れていきました。

コモドールによる買収とその後

6502の成功にもかかわらず、モステクノロジーは会社として経営上の課題を抱えていました。マイクロプロセッサ市場が拡大する一方で、創業の柱であった電卓市場は縮小し、資金繰りに問題を抱えるようになったのです。これを受けて、緊密な関係にあったコモドール社が救済に乗り出し、1976年にモステクノロジー全体を買収しました。買収後も一時的に旧社名を維持しましたが、最終的にはコモドール・セミコンダクタ・グループと改称されました。ただし、その後も1989年頃まで、出荷されるチップには「MOS」のロゴが印字され続けました。

6502の主要な設計者の一人であるビル・メンシュは、コモドールによる買収が行われる前にモステクノロジーを退職していましたが、1978年にウェスタンデザインセンター（WDC）を設立しました。WDCはモステクノロジーから6502のライセンスを受け、低消費電力のCMOSプロセスで製造された「65C02」やその派生品であるマイクロコントローラ「65C150」などを開発・製造しました。さらに、16ビットにアーキテクチャを拡張した「65816」も開発しました。WDCが6502とその周辺チップをCMOS化し、長期にわたって供給を続けたことで、6502アーキテクチャは現在でも一部の組み込みシステムで利用されています。

GMTマイクロエレクトロニクスへの変遷と会社の終焉

1994年にコモドール社が倒産すると、コモドール・セミコンダクタ・グループは、かつての経営者たちによって買い戻され、「GMTマイクロエレクトロニクス」（Great Mixed-signal Technologies）と名称を変更して事業を継続しようとしました。しかし、2001年にアメリカ環境保護庁（EPA）から工場施設の操業停止命令を受けます。これは、同社の半導体工場が1989年以降、環境汚染地域として指定されていたためです。この命令によりGMTは活動を停止し、会社は清算され、モステクノロジーの歴史は完全に幕を閉じました。

主な製品群

モステクノロジーおよびコモドール・セミコンダクタ・グループが製造した主な製品には以下のようなものがあります。

KIM-1: 6502マイクロプロセッサを搭載したシンプルなワンボードマイコンキット。
6501: モトローラのMC6800とピン互換性を持つCPU。
6502: 6501からピン互換性を排除した、同社を代表するマイクロプロセッサ。
6507, 6508, 6509, 6510: 6502の機能を一部変更・追加した派生モデル。
6520 (PIA), 6522 (VIA), 6523/6525 (TPI), 6526/8520/8521 (CIA), 6529 (SPI): CPUと周辺機器の接続を担う各種インターフェースアダプタ。
6530 (RRIOT), 6532 (RIOT): ROM、RAM、I/O、タイマーといった機能を複合的に搭載したチップ。
6545 (CRTC): CRTディスプレイの表示制御を行うコントローラ。
6551 (ACIA): シリアル通信を行うための非同期通信インターフェースアダプタ。
* 6581 (SID): コモドール64などで使用された高機能なサウンドジェネレーター。

参考文献: 本記事の一部情報は、2008年11月1日以前にFree On-line Dictionary of Computingから取得した資料を元に、GFDL バージョン1.3以降の条件に基づき作成されています。

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