モルダヴィア・ソビエト社会主義共和国
モルダヴィア・ソビエト社会主義共和国（モルダヴィアSSR）は、かつてソビエト社会主義共和国連邦（ソ連）を構成していた共和国の一つです。正式名称はモルドバ語でリプブリカ・ソヴィエティケ・ソチアリスチェ・モルドヴェニャスク、ロシア語ではモルダフスカヤ・ソヴィエツカヤ・ソツィアリスティチェスカヤ・レスプブリカと称されました。時にはソビエト・モルダヴィアと呼ばれることもありました。この共和国は、現在のモルドバ共和国および国際的には未承認である沿ドニエストル共和国の領域にほぼ相当します。
国章には、ソ連の構成共和国として社会主義の象徴である鎌と槌が描かれ、社会主義国家の標語である「万国の労働者よ、団結せよ！」がモルドバ語で記されていました。国歌は「モルダヴィア・ソビエト社会主義共和国国歌」でした。
モルダヴィアSSRの歴史は、その前身であるウクライナ・ソビエト社会主義共和国（ウクライナSSR）内の自治共和国、モルダヴィア自治ソビエト社会主義共和国（モルダヴィアASSR）から始まります。モルダヴィアASSRは、ドニエストル川の東岸に位置していましたが、当時ルーマニア王国の領土であったドニエストル川西岸のベッサラビア地方に対する領有権を主張していました。1939年にナチス・ドイツとソ連の間で結ばれた独ソ不可侵条約の秘密議定書において、ベッサラビアがソ連の勢力圏とされたことを背景に、ソ連は1940年6月28日、ルーマニア領のベッサラビア地方とブコヴィナ地方北部を軍事的に占領しました。
これらの占領地は、一旦ウクライナSSRとモルダヴィアASSRに分割編入された後、同年8月2日にはモルダヴィアASSRがウクライナSSRから分離独立し、ベッサラビアの大部分とブコヴィナ北部の一部を編入して、ソ連の新しい連邦構成共和国としてモルダヴィアSSRへと昇格しました。
一方、大幅に領土を失ったルーマニアでは国内の不満が高まり、親独政権が樹立されます。ルーマニアは日独伊三国同盟に加盟し、1941年6月22日に開始されたドイツによるソ連侵攻作戦、バルバロッサ作戦に枢軸国側として参加しました。ルーマニア軍は旧領であるベッサラビアを「奪還」することに成功し、これによりモルダヴィアSSRはその実体を一時的に喪失しました。ルーマニアはこの占領地帯にトランスニストリア県を設置します。しかし、第二次世界大戦の戦況が枢軸国にとって不利に傾くと、ソ連軍は反攻に転じ、1944年8月にはヤッシー＝キシナウ攻勢によってルーマニアに大打撃を与え、降伏させました。ルーマニアは再びソ連に領土を返還することを余儀なくされ、モルダヴィアSSRが復活しました。
1980年代後半にソビエト連邦全体で高まった民族主義運動は、モルダヴィアSSRにも波及しました。住民の多数を占めるモルドバ人は、主にベッサラビア地方に居住しており、かつてルーマニア領であった歴史的背景から、言語や民族性がルーマニアと共通していました。このため、モルドバ人の間ではルーマニアとの再統合を望む声が高まりました。共和国政府は、地名をロシア語表記からルーマニア語表記に戻したり、国旗をルーマニア国旗に類似したデザインに変更するなど、民族主義的な政策を推進しました。
しかし、ドニエストル川東岸に多く居住するロシア系住民は、ルーマニアとの再統合に強く反対しました。彼らは独自の自治を求め、1990年9月2日にモルダヴィアSSRからの独立を一方的に宣言し、沿ドニエストル共和国の樹立を主張しました。また、モルダヴィアSSR南部のベッサラビア地方に居住するテュルク系のガガウズ人もまた、1990年8月19日にガガウズ共和国としての独立を宣言し、モルダヴィアSSRは複数の勢力による分裂の危機に直面しました。
このような状況下で、モルダヴィアSSRは1991年8月27日にモルドバ共和国として独立を宣言しました。ソ連政府はこの独立を当初承認しませんでしたが、同年12月26日のソビエト連邦自体の崩壊により、モルドバ共和国の独立は事実上確定しました。
独立後、モルドバ共和国は沿ドニエストル共和国との間で紛争（沿ドニエストル戦争）を経験しましたが、沿ドニエストル側は独立状態を維持することに成功しました。一方、ガガウズ共和国の独立運動は行き詰まり、1995年6月19日にモルドバ共和国内のガガウズ自治区として合意の上で編入される形で収束しました。なお、沿ドニエストル共和国は、モルダヴィアSSR時代の憲法を維持するとともに、当時の国旗を現在も使用し続けています。
モルダヴィアASSR時代には、既に一定数のモルドバ人が居住していましたが、人口比率ではウクライナ人が最も多数を占めていました。しかし、モルダヴィアSSRが成立し、人口の多いルーマニア領ベッサラビア地方を併合したことにより、人口構成は大きく変化し、モルドバ人が過半数を占めるようになりました。他の民族としては、ロシア人、ウクライナ人、ガガウズ人などが居住していました。
モルダヴィア・ソビエト社会主義共和国の経済
ソビエト連邦
沿ドニエストル共和国
国章には、ソ連の構成共和国として社会主義の象徴である鎌と槌が描かれ、社会主義国家の標語である「万国の労働者よ、団結せよ！」がモルドバ語で記されていました。国歌は「モルダヴィア・ソビエト社会主義共和国国歌」でした。
歴史
モルダヴィアSSRの歴史は、その前身であるウクライナ・ソビエト社会主義共和国（ウクライナSSR）内の自治共和国、モルダヴィア自治ソビエト社会主義共和国（モルダヴィアASSR）から始まります。モルダヴィアASSRは、ドニエストル川の東岸に位置していましたが、当時ルーマニア王国の領土であったドニエストル川西岸のベッサラビア地方に対する領有権を主張していました。1939年にナチス・ドイツとソ連の間で結ばれた独ソ不可侵条約の秘密議定書において、ベッサラビアがソ連の勢力圏とされたことを背景に、ソ連は1940年6月28日、ルーマニア領のベッサラビア地方とブコヴィナ地方北部を軍事的に占領しました。
これらの占領地は、一旦ウクライナSSRとモルダヴィアASSRに分割編入された後、同年8月2日にはモルダヴィアASSRがウクライナSSRから分離独立し、ベッサラビアの大部分とブコヴィナ北部の一部を編入して、ソ連の新しい連邦構成共和国としてモルダヴィアSSRへと昇格しました。
一方、大幅に領土を失ったルーマニアでは国内の不満が高まり、親独政権が樹立されます。ルーマニアは日独伊三国同盟に加盟し、1941年6月22日に開始されたドイツによるソ連侵攻作戦、バルバロッサ作戦に枢軸国側として参加しました。ルーマニア軍は旧領であるベッサラビアを「奪還」することに成功し、これによりモルダヴィアSSRはその実体を一時的に喪失しました。ルーマニアはこの占領地帯にトランスニストリア県を設置します。しかし、第二次世界大戦の戦況が枢軸国にとって不利に傾くと、ソ連軍は反攻に転じ、1944年8月にはヤッシー＝キシナウ攻勢によってルーマニアに大打撃を与え、降伏させました。ルーマニアは再びソ連に領土を返還することを余儀なくされ、モルダヴィアSSRが復活しました。
消滅
1980年代後半にソビエト連邦全体で高まった民族主義運動は、モルダヴィアSSRにも波及しました。住民の多数を占めるモルドバ人は、主にベッサラビア地方に居住しており、かつてルーマニア領であった歴史的背景から、言語や民族性がルーマニアと共通していました。このため、モルドバ人の間ではルーマニアとの再統合を望む声が高まりました。共和国政府は、地名をロシア語表記からルーマニア語表記に戻したり、国旗をルーマニア国旗に類似したデザインに変更するなど、民族主義的な政策を推進しました。
しかし、ドニエストル川東岸に多く居住するロシア系住民は、ルーマニアとの再統合に強く反対しました。彼らは独自の自治を求め、1990年9月2日にモルダヴィアSSRからの独立を一方的に宣言し、沿ドニエストル共和国の樹立を主張しました。また、モルダヴィアSSR南部のベッサラビア地方に居住するテュルク系のガガウズ人もまた、1990年8月19日にガガウズ共和国としての独立を宣言し、モルダヴィアSSRは複数の勢力による分裂の危機に直面しました。
このような状況下で、モルダヴィアSSRは1991年8月27日にモルドバ共和国として独立を宣言しました。ソ連政府はこの独立を当初承認しませんでしたが、同年12月26日のソビエト連邦自体の崩壊により、モルドバ共和国の独立は事実上確定しました。
独立後、モルドバ共和国は沿ドニエストル共和国との間で紛争（沿ドニエストル戦争）を経験しましたが、沿ドニエストル側は独立状態を維持することに成功しました。一方、ガガウズ共和国の独立運動は行き詰まり、1995年6月19日にモルドバ共和国内のガガウズ自治区として合意の上で編入される形で収束しました。なお、沿ドニエストル共和国は、モルダヴィアSSR時代の憲法を維持するとともに、当時の国旗を現在も使用し続けています。
住民
モルダヴィアASSR時代には、既に一定数のモルドバ人が居住していましたが、人口比率ではウクライナ人が最も多数を占めていました。しかし、モルダヴィアSSRが成立し、人口の多いルーマニア領ベッサラビア地方を併合したことにより、人口構成は大きく変化し、モルドバ人が過半数を占めるようになりました。他の民族としては、ロシア人、ウクライナ人、ガガウズ人などが居住していました。
関連項目
モルダヴィア・ソビエト社会主義共和国の経済
ソビエト連邦
沿ドニエストル共和国
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