モンゴルのビルマ侵攻

モンゴル帝国によるビルマ侵攻：パガン朝の滅亡とその後

13世紀後半、モンゴル帝国は南宋を征服した後も、その勢力を拡大しようと周辺諸国に圧力を強めました。その標的となったのが、ビルマ(現在のミャンマー)のパガン朝です。1277年から1287年にかけて勃発したこの戦争は、元緬戦争とも呼ばれ、ビルマの歴史に大きな転換をもたらしました。

侵攻の背景

1253年から1254年にかけて、モンゴル帝国はウリヤンカダイ将軍率いる軍勢で大理国を征服しました。これにより、モンゴル帝国とパガン朝は国境を接する関係となりました。クビライ・ハンがモンゴル帝国を統一し、元朝を建国すると、周辺諸国への服属を要求。パガン朝のナラティーハパテ王は、1271年と1273年に送られた使者を拒絶、さらには処刑するという挑発的な行為に出ました。この侮辱的な行為に激怒したクビライ・ハンは、ついに軍事行動を決断します。パガン朝は、元朝に内通したタイ系の諸族に対して報復攻撃を行い、これが元軍による侵攻の引き金となりました。

侵攻の経過

1277年: 元軍は雲南からパガン領に侵攻を開始。永昌付近で発生した戦闘では、パガン軍の戦象部隊が元軍騎馬隊を苦戦させました。しかし、元軍は馬から降りて弓矢による遠距離攻撃で戦象を制圧、その後、反撃に転じパガン軍を撃破します。この戦闘は、マルコ・ポーロの『東方見聞録』にも詳細に記録されています。しかし、元軍の指揮官も負傷したため、深追いせず雲南へ撤退。同年、元軍はビルマ北部バモーを攻撃し、駅伝を設置しようと試みましたが、熱病の流行により撤退を余儀なくされました。

1283年: 元軍はナラティーハパテ王の服属を目的に、再びパガン領に侵攻。バモーを攻撃し、ナラティーハパテ王は首都パガンから西ラハニャカラに逃亡。しかし、王は既に国民からの支持を失っていました。「タヨウピイェー」（元から逃亡した者）という彼の異名からも、その状況が窺えます。一方、下ビルマではモン人がパガン朝の混乱に乗じて蜂起、1287年にはワレル王を首長とするペグー朝が成立しました。

1287年: ナラティーハパテ王は元への服属を決意しますが、庶子に毒殺されます。その後を継いだチョウスワー王は、シャン人3兄弟の実権掌握下にありました。この内紛に乗じ、元軍はパガンを陥落させ、パガン朝は事実上滅亡。元は傀儡政権を樹立し、パガン朝を属国としました。

侵攻後のビルマ

しばらくの間、元とパガン朝の属国関係は維持されましたが、1299年にシャン人3兄弟がチョウスワー王とその息子を殺害、ツオウニ王を擁立。これに対し、元は1300年に再び侵攻しますが、シャン人によって撃退され和議を結びます。1303年には征緬省が廃止され、元のビルマへの直接支配は終焉を迎えます。シャン人3兄弟はミンザイン王国を建国し、ビルマを支配しますが、内紛によって衰退。その後、ピンヤ朝、サガイン朝など様々な王朝が興亡し、ビルマは長期にわたる分裂時代に入りました。16世紀になって、ペグー朝、アヴァ朝、タウングー朝が鼎立しましたが、最終的にタウングー朝のタビンシュエーティー王が統一を果たし、モンゴル侵攻以来の分裂状態に終止符を打ちました。

まとめ

モンゴル帝国によるビルマ侵攻は、パガン朝の滅亡という結果をもたらし、ビルマの歴史に大きな影響を与えました。侵攻後も、ビルマ国内では政治的混乱が続き、長期にわたる分裂時代へと突入しました。この戦争は、モンゴル帝国の膨張と、その後のビルマの政治的・社会的な変容を理解する上で重要な出来事です。

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