モーゼス・フィンリー

サー・モーゼス・フィンリー（Sir Moses I. Finley、1912年5月20日 - 1986年6月23日）は、20世紀を代表する古代ギリシア史の研究者です。アメリカ合衆国で生まれ、後にイギリスに帰化しました。

生涯と学問

ニューヨーク市で生まれたフィンリーは、幼少期からその才能を発揮し、15歳でシラキュース大学を優秀な成績で卒業。心理学の学士号を取得後、コロンビア大学で公法と古代史の修士号を取得しました。ドイツ留学の経験も持ちますが、ナチスの台頭により帰国を余儀なくされました。その後、コロンビア大学、ニューヨーク市立大学、ラトガース大学で教鞭を執り、研究者としてのキャリアをスタートさせます。

フィンリーの名を学界に轟かせたのは、古代アテネにおける抵当権設定に関する研究でした。その研究は、従来の古代史研究に新たな視点をもたらし、大きな衝撃を与えました。

しかし、1950年代初頭、フィンリーは共産主義者であるという告発を受け、下院非米活動委員会に召喚されます。彼は合衆国憲法修正第5条を根拠に証言を拒否し、ラトガース大学を解雇されることとなりました。

その後、フィンリーはイギリスに渡り、ケンブリッジ大学で教鞭を執ることになります。1955年に古典学研究科講師として招聘され、1957年にはジーザス・カレッジの特待校友に選出されました。1962年にはイギリス国籍を取得し、1966年に同カレッジの古代社会史および経済史の上級講師、1970年から1980年にかけて古代史教授を務めました。また、1976年から1982年までダーウィン・カレッジ（大学院大学）の学寮長を務め、1971年にはイギリス学士院会員に選出、1979年にはナイトの称号を授与されました。

研究内容と業績

フィンリーの研究は、古代ギリシアの経済、社会、政治、思想など、多岐にわたります。彼の著作は、古代世界の構造と特質を鮮やかに描き出し、現代の読者にも深い示唆を与えています。

『オデュッセウスの世界』では、ホメロスの叙事詩『イリアス』と『オデュッセイア』を、口承文芸研究や社会人類学の知見を援用しながら分析し、当時の社会や文化を描き出しました。この著作は、ホメロス研究に新たな視点をもたらし、大きな影響を与えました。

『古代経済』では、古代経済を近代経済学とは異なる視点から分析することの重要性を指摘し、非市場経済の特性を明らかにしました。この著作は、古代経済史研究に大きな影響を与え、その後の研究の方向性を決定づけました。

『古代と現代の民主主義』では、古代ギリシアの民主主義と現代の民主主義を比較検討し、民主主義の理念と現実について考察しました。この著作は、政治思想史研究に新たな視点をもたらし、現代社会における民主主義のあり方を問い直すきっかけとなりました。

モーゼス・フィンリーは、古代ギリシア史研究に多大な貢献をしただけでなく、その研究を通じて、現代社会にも重要な示唆を与え続けています。

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