モーゼス・フリート・ウォーカー

モーゼス・フリートウッド・ウォーカー

モーゼス・フリートウッド・ウォーカー（Moses Fleetwood "Fleet" Walker, 1856年10月7日 - 1924年5月11日）は、アメリカ合衆国オハイオ州マウントプレザント出身のプロ野球選手です。ポジションは捕手で、右投右打でした。彼は弟のウェルデイ・ウォーカーと共に、メジャーリーグにおいて最初にプレーしたアフリカ系アメリカ人選手として歴史に名を刻んでいます。

生い立ちと学生時代

ウォーカーは、マウントプレザントで初めての黒人医師であったモーゼス・W・ウォーカーと白人の母親のもとに生まれました。彼は高等教育を受け、1878年にオーバリン大学に入学。そこで野球チームの一員として活躍しました。その後、1882年にはミシガン大学へ転学し、引き続き大学の野球チームに在籍しました。

プロ野球界での挑戦

1883年、ウォーカーは当時マイナーリーグのノースウェスタン・リーグに所属していたトレド・ブルーストッキングスと契約し、プロの捕手としてのキャリアをスタートさせました。同年8月10日、トレドはキャップ・アンソン率いるシカゴ・ホワイトストッキングス（現在のシカゴ・カブス）とのエキシビション試合を予定していました。しかし、その際にアンソンがウォーカーの出場を拒否するという出来事が発生しました。それでもトレドはウォーカーを擁して試合を行いました。

翌1884年、トレド・ブルーストッキングスはアメリカン・アソシエーションに加盟し、メジャーリーグ球団となります。そして、同年5月1日の試合でウォーカーはメジャーリーグの公式戦に出場。これが、アフリカ系アメリカ人選手がメジャーリーグでプレーした初めての瞬間となりました。

1884年シーズン中、トレドの主力投手であったトニー・マレーンは、ウォーカーの能力自体は高く評価していましたが、「黒人が嫌いだから、彼のサインは見ずに好きな球を投げていた」と後に語っており、当時の野球界における人種差別の現実が垣間見えます。ウォーカーはこの年、捕手として41試合に出場しましたが、シーズン途中に鎖骨を骨折する重傷を負い、残りの試合を欠場しました。また、このシーズンにはリーグで最も多い72個の捕逸を記録しています。

マイナーリーグ時代と「カラーライン」

トレド・ブルーストッキングスが経営破綻した後、ウォーカーは1885年以降、クリーブランドやウォーターバリーといったマイナーリーグの球団を渡り歩きながら野球を続けました。1887年にはインターナショナルリーグでジョージ・ストーヴィーとバッテリーを組みましたが、これはアメリカのプロ野球史上初の「アフリカ系アメリカ人同士のバッテリー」として特筆されています。

しかし、この時代はメジャーリーグだけでなくマイナーリーグにおいても、徐々に人種隔離の方針（いわゆる「カラーライン」）が強化され、アフリカ系アメリカ人選手の参加を制限する動きが広がっていきました。ウォーカーもその波に翻弄され、チームを転々としながら1889年まで選手として活動しました。彼が最後に所属したシラキュース・スターズは、1890年にメジャーリーグに昇格しますが、その時にはすでにウォーカーはチームを離れていました。

野球引退後の人生

野球選手を引退したウォーカーは、多岐にわたる活動を行いました。1891年4月、シラキュースで白人の集団に襲われる事件に巻き込まれ、反撃した際にそのうちの一人に致命傷を負わせてしまいます。逮捕されたウォーカーは正当防衛を主張し、同年6月3日の裁判で無罪の評決を勝ち取りました。評決の日には裁判所に多くの人々が集まり、無罪の決定に歓喜の声があがったと伝えられています。

ウォーカーはまた、思想家としての顔も持ち合わせていました。1908年には『Our Home Colony: A Treatise on the Past, Present, and Future of the Negro Race in America』という冊子を出版し、アメリカ国内に住む黒人に対し、アフリカへの移住を提唱しました。彼は他にも発明家として特許を取得するなど、引退後も様々な分野で活動しました。

モーゼス・フリートウッド・ウォーカーは、1924年5月11日にオハイオ州クリーブランドでその生涯を閉じました。遺体は同州ステューベンヴィルのユニオン墓地に埋葬されています。

ウォーカーのキャリアは、人種隔離が制度化される以前の短い期間にメジャーリーグでプレーした貴重な事例であり、その後の野球界における人種問題、そしてアメリカ社会全体の複雑な歴史を理解する上で重要な人物と言えます。

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