モータリック

モータリック・ビート：クラウトロックの推進力

モータリック（Motorik）は、クラウトロックというジャンルを象徴する、特徴的な4/4拍子のリズムパターンです。このビートは、1970年代のドイツの実験的なロックバンドによって開拓され、その音楽性と深く結びついています。音楽ジャーナリストによって名付けられたこの用語は、ドイツ語で「運動能力」を意味し、その名の通り、絶え間ない推進力を感じさせるリズミカルな特徴を持っています。

モータリック・ビートの起源と特徴

モータリック・ビートの創始者として知られるのは、ドイツの伝説的なバンド、カンのドラマーであるヤキ・リーベツァイトです。彼は、この単調でありながらも推進力のあるリズムを追求し、その後の音楽シーンに大きな影響を与えました。また、ノイ！のクラウス・ディンガーもモータリック・ビートの初期の先駆者であり、彼自身はそれを「アパッチ・ビート」と呼んでいました。

このビートの最も顕著な特徴は、4/4拍子で一定のテンポを保ちながら、各小節で同じパターンが繰り返される点です。通常、曲の最初の小節でスプラッシュまたはクラッシュシンバルが打ち込まれます。この規則的な反復が、聴く者に前進するような感覚を与え、そのシンプルさの中に独特の魅力を生み出しています。クラウス・ディンガーは、モータリック・ビートを「まさに人間のビートだ」と表現し、それは「生きること、動き続け、走り続けなければならない」という人間の本質を体現していると述べています。

音楽評論家による分析

一部の音楽評論家は、モータリック・ビートのスタイルを、ベートーヴェンやロッシーニといった作曲家の音楽における前進感と比較し、ジャズのリズムドラム演奏にも類似性を見出しています。また、このビートが、初期の段階から「産業近代の栄光」を想起させるとも指摘しています。

モータリック・ビートの応用

モータリック・ビートは、クラウトロックの枠を超えて、様々なジャンルの音楽に取り入れられてきました。その影響は、サイケデリックロック、ポストパンク、インディーロック、そして現代の「クラウトロック」バンドまで、幅広い音楽に見られます。スージー・アンド・ザ・バンシーズの音楽においては、ケニー・モリスとバッジーというドラマーたちの参加により、モータリック・ビートが重要な要素となりました。

その他、ジョイ・ディヴィジョン、ビーク、ザ・ウォー・オン・ドラッグス、エレクトラレーン、ザ・ラプチャー、LCDサウンドシステム、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード、シー・オー・シーズ、モダン・ラヴァーズ、イギー・ポップ、パブリック・イメージ・リミテッド、ウルトラヴォックス、ステレオラブ、ヨ・ラ・テンゴ、エンドレス・ブギー、アイドルズ、ムーン・デュオ、そしてサム・フェンダーのドラマーであるドリュー・マイケルといったアーティストたちが、モータリック・ビートを取り入れています。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのドラマー、モーリン・タッカーのドラム・スタイルは、クリス・ジョーンズによって「プロト・モータリック」と評され、その初期段階の影響を示す例として挙げられます。

言葉の由来

モータリックという言葉は、音楽ジャーナリズムの中で、容赦のないオスティナートリズムを表すために使用されてきた「モーターリック (motoric)」という用語の改変、または「モーター (motor)」と「音楽」（ドイツ語で「ムジーク (musik)」）の組み合わせに由来すると考えられます。また、ドイツ語で運動能力を意味する「モータリック」は、反復的でありながらも前進するリズムの感覚から、高速道路での運転体験に喩えられていることもあります。

まとめ

モータリック・ビートは、単なるリズムパターン以上のものです。それは、クラウトロックという音楽ジャンルの核心であり、その反復的な構造は、聴く者に独特の推進力と高揚感を与えます。このビートは、そのシンプルさにもかかわらず、多くのアーティストに影響を与え、現代音楽の重要な要素として存在し続けています。

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