モーツァルトとサリエリ (オペラ)

ニコライ・リムスキー＝コルサコフが1897年に作曲し、翌年に初演された短編オペラ『モーツァルトとサリエリ』作品48は、ロシアの文豪アレクサンドル・プーシキンが1830年に発表した『小悲劇』シリーズに収められた同名戯曲を原作としています。「劇的場面集」と称されるこの作品は、1幕2場から成り、演奏時間はおよそ40分です。

このオペラの初演は、1898年11月18日（ユリウス暦では11月6日）、モスクワのソロドヴニコフ劇場にて、富豪サーヴァ・マモントフ率いる私設歌劇団によって行われました。モーツァルト役をワシーリー・シュカフェル、サリエリ役をフョードル・シャリアピンという当時の名歌手が演じ、ジュゼッペ・トルッフィが指揮を担当しました。

台本はプーシキンの原作戯曲がほぼそのまま用いられており、モーツァルトの死という悲劇的なテーマが扱われます。登場人物はサリエリとモーツァルトの二人が中心で、物語の多くはサリエリの内心の葛藤を描く独白によって進行します（歌唱のない盲目のヴァイオリン弾きも登場）。リムスキー＝コルサコフは、この作品の音楽を「アリオーゾ＝レチタティーヴォ」形式と呼び、言葉の一言一言からインスピレーションを得た旋律が特徴です。この手法は、アレクサンドル・ダルゴムイシスキーからの影響であり、リムスキー＝コルサコフはこの作品をダルゴムイシスキーに献呈しています。

通常のリムスキー＝コルサコフ作品とは異なり、本作では18世紀の音楽様式を意識した、より簡素で小規模な編成の音楽が用いられています。これは、登場人物二人の心理劇に焦点を当てる意図があったと考えられます。劇中には、モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』や彼の『レクイエム』、サリエリのオペラ『タラール』からの音楽的な引用が効果的に織り込まれており、特に『レクイエム』の演奏シーンは作品の大きな聴きどころであり、クライマックスを形作ります。第1場でモーツァルトが奏でる楽曲（Allegretto Semplice / Grave）は、モーツァルトのスタイルを模して作曲家自身が書き下ろしたものです。

使用される楽器編成は、フルート、オーボエ（コーラングレ持ち替え）、クラリネット、ホルン各1、ピアノ、そして弦楽五部が基本となります。これにトロンボーン3とティンパニが加わることもありますが、これらは省略可能です。また、第2場では舞台裏の混声四部合唱が加わるオプションもあります。

登場人物は、苦悩する音楽家サリエリ（バス）と、天真爛漫な天才モーツァルト（テノール）です。

物語のあらすじは以下の通りです。

第1場：努力型の音楽家サリエリは、モーツァルトの自然な天才に激しい嫉妬を募らせ、苦しい独白を行います。そこへ無邪気なモーツァルトが現れ、彼に新しい音楽を聞かせます。サリエリはモーツァルトの才能を認めつつも、彼を毒殺することを決意します。

第2場：飲み屋で食事をするサリエリとモーツァルト。モーツァルトは、最近レクイエムの作曲を依頼してきた黒衣の男について話します。サリエリはモーツァルトの飲み物に毒を入れます。モーツァルトはピアノでレクイエムの一部を弾き、サリエリは涙を流します。体調の悪化を感じたモーツァルトは家路につき、一人残されたサリエリは、モーツァルトの言葉「天才と悪人は両立しない」の意味を深く考えます。

本作は、人間の普遍的な感情である嫉妬と、芸術における天才性の問題を掘り下げた、短いながらも濃密な音楽劇として、今日でも上演されることがあります。

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