モート

モート：ウガリット神話の死と乾季の神

モート（mt [môtu]）は、ウガリット神話に登場する死と乾季の神です。その名前はセム語で「死」を意味し、彼は最高神イルと女神アーシラトの息子であり、豊穣神バアルの兄弟でもありますが、同時に敵対者という複雑な関係にあります。

神話

モートに関する神話では、兄弟のバアルが神々の王としての祝宴を開くことが決まりました。その祝宴に自らを招待する使者を送ったのですが、モートが期待していた人間の肉が供されず、料理とワインが振る舞われると逆上しました。彼はバアル自身が会いに来るよう求めます。この状況を受けてバアルはモートの元に降りていきました。

バアルは太陽神のシャプシュの助言を受けて、密かに牝牛と子をもうけることに成功します。しかし、モートはバアルの姿を見破ることなく彼を飲み込んで殺戮しました。モートの肉体は冥界そのものであり、その喉は冥府の門となり、すべての生き物は彼の口から逃れることはできません。バアルがモートに飲み込まれている間、自然界への恩恵は絶たれてしまいます。

モートがバアルを飲み込んだ事実がアナトに知られると、彼女は彼の身柄を取り戻そうとモートに抗議します。怒ったアナトはモートを殺し、その肉体を切り刻み、粉砕し、火を通して地に撒きました。このアナトの行動は、農業における伝統や意図的な破壊を象徴しているとも考えられています。

その後、バアルは復活するものの、7年後にはモートも復活します。この復活はバアルとの再戦を引き起こし、この二者の闘争は雨季と乾季が交互に現れる自然のサイクルを象徴しています。また、モートが7年後に復活することは、農地を7年ごとに休ませることで豊作を期待する風習を反映しているとも考えられています。

モートはバアルに対抗し、その兄弟の一人を提供しなければ人類を食い尽くすと脅しました。バアルは「モートの子どもたち」を送り、これに応じてモートは再度バアルに挑みました。この際、太陽神シャプシュが介入し、争いを止めるよう訴えました。モートはこの訴えを受け入れ、バアルが神々の王であることを認めることで一時的な平和が訪れました。

信仰

モートに関する礼拝や祭儀については詳細がほとんど残っていません。ビブロスのフィロによると、1世紀の記録では、フェニキアで信仰されていた神ムトがローマの冥界の神プルートーと同一視されていたということが伝えられています。

脚注

モートを巡る神話や信仰は、古代オリエントの宗教的な観念を理解するための重要な手がかりとなります。彼の存在は自然の周期、人間の死、そして農業の文化に深い影響を与えてきたと言えるでしょう。モートはその名の通り、死だけでなく、豊作の背後にある生の循環とも関わっています。

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