モーリッツ (ザクセン選帝侯)

モーリッツ：激動の時代を駆け抜けたザクセン選帝侯

モーリッツ（1521年3月21日 - 1553年7月9日）は、16世紀の神聖ローマ帝国において、ザクセン公から選帝侯へと地位を確立した人物です。彼の生涯は、宗教改革、領土紛争、そして権力闘争が複雑に絡み合った時代を反映しています。

生涯

1521年、ザクセン公ハインリヒ4世の息子として生まれたモーリッツは、1541年に父の死後、ザクセン公位を継承しました。当初、彼は神聖ローマ皇帝カール5世に従い、オスマン帝国やフランスとの戦いに参加しました。

シュマルカルデン戦争と選帝侯位

1540年代、カール5世は勢力を拡大するシュマルカルデン同盟（プロテスタント諸侯の同盟）との対立を深めていました。皇帝はモーリッツに対し、選帝侯位を与えることを条件に同盟との戦いを要請します。当時、ザクセン選帝侯位はエルンスト家が保持しており、モーリッツの又従兄であるヨハン・フリードリヒがその地位にありました。また、同盟の指導者の一人であるヘッセン方伯フィリップは、モーリッツの妻アグネスの父でした。つまり、モーリッツの取り込みは、同盟の中核を揺さぶる効果があったのです。

モーリッツは皇帝の提案を受け入れ、1546年に始まったシュマルカルデン戦争でカール5世側として参戦。1547年のミュールベルクの戦いで同盟軍を破り、その功績によりザクセン選帝侯位と広大な領地を与えられました。しかし、この裏切り行為から、彼は「マイセンのユダ」と呼ばれるようになります。

反皇帝闘争とパッサウ条約

戦勝後、カール5世はルター派を異端とする暫定規定を受諾させようとしましたが、モーリッツは皇帝の強硬な姿勢に反発。マクデブルクの包囲を名ばかりのものとし、フランス王アンリ2世と結んで1552年にカール5世を攻撃しました。皇帝はインスブルックに逃亡し、弟のフェルディナント1世にモーリッツとの和平交渉を委ねました。

1552年8月、パッサウ条約が締結され、ルター派の容認が決定。これは、1555年のアウクスブルクの和議の原型となりました。その後、モーリッツは再びカール5世と協力し、オスマン帝国の侵攻を阻止しました。

戦死

1553年、ブランデンブルク＝クルムバッハ辺境伯アルブレヒト・アルキビアデスがパッサウ条約の受諾を拒否したため、モーリッツはヴォルフェンビュッテル侯ハインリヒ2世と共にアルブレヒトを攻撃。同年7月9日、ジーフェルスハウゼンの戦いで勝利を収めたものの、モーリッツ自身も戦死しました。後継ぎとなる男子がいなかったため、弟のアウグストが選帝侯位を継承しました。

モーリッツの生涯は、宗教改革という激動の時代において、自身の立場と利益を守りながら、時には大胆な決断を下した指導者の姿を浮き彫りにしています。彼の行動は、裏切り者として非難される一方で、プロテスタントの権利擁護に貢献したとも評価されています。


参考文献
菊池良生 『神聖ローマ帝国』 講談社現代新書、2008年

関連項目
アルベルティン家
* 第二次辺境伯戦争

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