モーリツ・ローゼンタール

モーリツ・ローゼンタール

概要

モーリツ・ローゼンタール（Moriz Rosenthal）は、1862年12月18日に現在のウクライナ、当時のレンベルク（リヴィウ）で生まれ、1946年9月3日にアメリカ合衆国のニューヨークで亡くなった、ポーランド出身のピアニストです。ユダヤ系として知られ、その演奏は特に洗練された技巧と深い音楽性で高い評価を得ました。

略歴

レンベルクの大学教授を父に持つ家庭に生まれたローゼンタールは、8歳でガロートにピアノの手ほどきを受けました。ガロートの指導法は独特で、技術的な細部に過度にこだわらず、生徒に自由に初見演奏や移調を楽しむことを許容するものでした。この unconventional なアプローチは一般的ではありませんが、ローゼンタールにとっては早期から音楽に対する自由な発想を培う上で不利には働かなかったようです。

1872年、ローゼンタールはショパンの研究者として知られるカール・ミクリのもとで学び始め、より体系的かつ学術的な音楽教育を受けました。その後、ラファエル・ヨセフィの助言を得て、まだ少年でありながらウィーンへ留学。ヨセフィからは、メンデルスゾーンやリストの教授法に基づいた、強固な基礎訓練を徹底的に施されました。弱冠14歳でルーマニア各地での演奏旅行を成功させるなど、その才能は早くから開花しました。

1878年には、フランツ・リストに師事するという重要な転機を迎えます。ヴァイマルやローマで直接指導を受け、その芸術に触れたことは、ローゼンタールのピアニストとしての道を決定づけるものとなりました。リストの著名な弟子の一人として、サンクトペテルブルクやパリをはじめとするヨーロッパ主要都市で演奏活動を展開し、名声を確立していきました。

しかし、専門的な音楽教育に傾倒する一方で、一般教育がおろそかになっていたことを痛感したローゼンタールは、1880年にウィーン大学の哲学科に入学するための資格を取得し、学問を深める期間を設けました。約6年間の学業を経てピアニストとしてのキャリアを再開した彼は、1895年にライプツィヒやイングランドで目覚ましい成功を収めます。その後、活躍の場はアメリカ合衆国にも広がり、同地でも大きな成功を収めました。

晩年の1939年以降は、ニューヨーク市に自身のピアノ教室を開き、後進の指導にも力を注ぎました。

教育者として

ローゼンタールは優れた教育者としても知られ、多くの才能あるピアニストを育てました。特に有名な弟子としては、ピアニストであり音楽学者としても著名なチャールズ・ローゼン、そしてキューバ出身の著名なピアニスト、ホルヘ・ボレットが挙げられます。チャールズ・ローゼンは自身の著書『Piano Notes: The World of the Pianist』の中で、師であるローゼンタールに関する興味深い逸話やアネクドートを数多く紹介しています。

作曲・編曲

演奏家としての活動の傍ら、ローゼンタールは作曲や編曲も手がけていました。彼の手による作品には、高度な演奏技巧を要するピアノ曲のほか、ヨハン・シュトラウス2世のワルツやフレデリック・ショパンの『小犬のワルツ』などをピアノ独奏用に編曲したものがあり、これらも演奏会などでしばしば取り上げられました。

モーリツ・ローゼンタールは、ピアニスト、教育者、作曲家という多角的な才能を発揮し、19世紀後半から20世紀半ばにかけての音楽界に確かな足跡を残した芸術家です。

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