ヤクタト (アラスカ州)

ヤクタト市郡

アラスカ州南東部、太平洋に面した海岸線に広がるヤクタト市郡（英語: Yakutat City and Borough）は、広大な領域を持つ統合市郡です。2010年の国勢調査によれば、この地域の人口は約4千人でした。

その名は先住民トリンギット族の言葉「ヤークワダート」（Yaakwdáat）に由来し、「カヌーが休む場所」という意味を持ちます。元来はエイアック族の言葉に起源を持つとされ、後にトリンギット語の「カヌー」（yaakw）の影響を受けて現在の名称に至ったとされます。人口の大部分は中心地であるヤクタト市に集中していますが、郡の西側中央部、アイシーベイ空港があるアイシーベイも比較的人口が集まる場所です。

特筆すべきは、中心地であるヤクタト市の面積が、アメリカ合衆国の都市として最大規模を誇り、世界の都市と比較しても上位（12位）に位置することです。その広さは、合衆国のロードアイランド州の約6倍に及び、日本の都道府県で2番目に広い岩手県をも凌ぐほどです。

歴史

ヤクタト地域の最初の居住者は、カッパー川流域から移住してきたエイアック語を話す人々であったと考えられています。その後、トリンギット族がこの地域に入植し、ヨーロッパ人が到来する以前にエイアック族はトリンギット族に同化していきました。ヤクタトは、多くのトリンギット族やトリンギット族とエイアック族が共に暮らす集落の一つに過ぎませんでしたが、他の集落が人口減少や放棄によって失われた中で、存続しました。

18世紀から19世紀にかけて、イギリス、フランス、スペイン、ロシアといったヨーロッパ諸国の探検家たちがこの地域に足を踏み入れました。ロシア系アメリカ会社の前身であるシェリホフ・ゴリコフ会社は、1795年にラッコの毛皮交易拠点としてヤクタトに砦を築きました。これはニューロシアまたはヤクタト植民地、あるいはスラボロシヤと呼ばれました。しかし、ロシア人が周辺の漁場へのアクセスを妨害したため、トリンギット族の戦士たちはこの砦を襲撃し、破壊しました。

アメリカ合衆国がアラスカを購入した後、1886年頃にはこの地域の黒砂海岸で金鉱探しの試みが盛んになりました。1889年には、スウェーデンのフリーミッション教会が学校と製材所を開設。20世紀初頭には、スティムソン木材会社が缶詰工場、別の製材所、商店、鉄道などを建設し、地域の産業が発展しました。1970年まで稼働したスティムソン社の缶詰工場は、多くの人々が現在のヤクタトに移り住むきっかけとなりました。第二次世界大戦中は、アメリカ陸軍航空隊がヤクタト近郊に大規模な部隊を駐屯させ、舗装された滑走路を建設しました。戦後に部隊は撤収しましたが、この滑走路は現在もヤクタト空港として定期便が運航され、利用されています。

ヤクタトは1992年9月22日に統合市郡として正式に発足しました。それ以前はスカグウェイ・ヤクタト・アングーン国勢調査地域の一部でしたが、この地域は後に名称が変更され、さらに再編成されています。

地理と自然

ヤクタト市は、ヤクタト湾の入り口、北緯59度32分49秒、西経139度43分38秒に位置しています。アラスカ湾沿いの低地に孤立しており、アラスカ州都ジュノーからは南西へ約340km離れています。

ヤクタト市郡の総面積は約24,500平方キロメートル（9,459平方マイル）に及び、そのうち陸地が約19,800平方キロメートル（7,650平方マイル）、水面が約4,690平方キロメートル（1,809平方マイル）を占め、約19%が水域です。西側は広大なアラスカ湾に面し、北西はバルデス・コルドバ国勢調査地域、南西はフーナー・アングーン国勢調査地域と接しています。さらに、北東から東にかけてはカナダのブリティッシュコロンビア州スティキーン地域、北側はユーコン準州と国境を接しています。

郡の広大な領域内には、チュガチ国立の森、グレイシャーベイ国立公園、トンガス国立の森、ランゲル・セントイライアス国立公園といった有名な保護地域の一部が含まれており、豊かな自然が保護されています。

ハバード氷河

ヤクタト市郡の自然の象徴の一つがハバード氷河です。これは数少ない「漸進型氷河」、すなわち前進を続けるタイプの氷河として知られています。この巨大な氷河は、過去に幾度かラッセルフィヨルドの入り口を塞ぎ、一時的に湖を形成した事例があります。特に1986年と2002年には、氷河がダムとなり、ラッセル湖の水位がそれぞれ約25メートル（83フィート）、約18メートル（61フィート）上昇しました。この氷河によるダムは最終的に崩壊しましたが、もしラッセル湖の水位が約41メートル（135フィート）まで上昇した場合、水が峠を越えてシトゥク川へと流れ込む可能性があります。これは世界的な漁場であるシトゥク川の生態系に大きな影響を及ぼす恐れがあります。ヤクタトの町自体は、氷河が町まで到達しない限り直接的な影響を受けませんが、その距離は非常に遠く、仮に到達するとしても1000年以上かかると予測されています。周辺の植生調査からは、1860年頃まで湖水が峠を越えて流出していた痕跡が確認されています。

気候

ヤクタト市郡の気候は、ケッペンの気候区分によれば西岸海洋性気候（Cfb）に分類されます。年間を通じて降水量が多く、その量は4000mm前後に達することがあります。年間のおよそ3分の2にあたる日数で雨や雪が観測される、非常に湿潤な地域です。夏季は比較的冷涼で、最高気温が20℃を超える日は少ないです。一方、冬は緯度の高さの割に温暖で、最も寒い時期でも雪よりも雨が降ることもしばしばあります。

経済と文化

現在のヤクタト市郡における主要な経済活動は漁業です。豊かな周辺海域は、地域経済を支える重要な基盤となっています。

文化的な側面では、先住民であるヤクタト・トリンギット族による言語保存の取り組みが注目されます。2004年に先住民管理局から言語保存の認可を受けたことで、中年層や若年層にトリンギット語を教える活動が活発化しました。彼らは全身反応教授法（Total Physical Response）のような、第二言語教育における伝達に焦点を当てた教授法を取り入れています。2007年にはさらに別の認可を受け、学校教育におけるトリンギット語の役割拡大にも取り組んでいます。

また、日本人写真家のセイキ・カヤモリ氏も、1912年から1941年まで地元の缶詰工場で働きながら、ヤクタトとその周辺の景観や人々の生活を精力的に写真に収めました。彼の貴重な作品群は現在、ヤクタト市役所に収蔵されています。

呼び物

夏季のヤクタトの海岸線や砂浜は、サーフィンを楽しむ人々に人気があります。水温は冷たいですが、夏は白夜に近く日照時間が長いため、全身を覆うウェットスーツを着用すれば快適にサーフィンを満喫できます。

（注記：人口に関する詳細な統計データは省略し、主要な数値のみを記載しました。マークダウン形式の表現は、一般的な整形に留めました。）

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