ヤコブの夢 (リベーラ)

ホセ・デ・リベーラの「ヤコブの夢」

スペインのバロック絵画の巨匠、ホセ・デ・リベーラによって1639年に描かれた『ヤコブの夢』は、旧約聖書「創世記」に記されたヤコブの物語を題材にした油彩作品です。現在、マドリードのプラド美術館に所蔵されています。

作品の来歴

この作品は、1658年のヘロニモ・デ・ラ・トレの目録に記載された可能性が高く、その後、1718年まで彼の後継者が所有していました。1746年には、スペイン王フェリペ5世の妃エリザベッタ・ファルネーゼのコレクションに加えられたことが記録されています。

主題

本作は、「創世記」に登場するヤコブの物語を描いています。ヤコブには双子の兄エサウがおり、エサウは狩猟を好む野性的な性格で父イサクに愛され、一方ヤコブは穏やかな性格で母リベカに愛されていました。ある時、エサウは空腹のあまり、ヤコブの作ったレンズ豆の煮物を懇願し、その見返りに長子権をヤコブに譲りました。その後、父イサクが老いて死期を悟った際、リベカはヤコブをそそのかし、エサウのふりをさせてイサクから祝福を奪いました。激怒したエサウから逃れるため、ヤコブはリベカの故郷であるハッラーンへと旅立つことになります。

作品の特徴

『ヤコブの夢』は、ハッラーンへの旅の途中、ヤコブが夢の中で天使が昇り降りする梯子を見る場面を描いています。バロック時代の同主題の作品では、天使の存在を強調した劇的な構成が一般的ですが、リベーラは対照的に、ヤコブを質素な旅人として描いています。木にもたれ、岩を枕にして眠るヤコブの姿は、力強くも親しみやすい印象を与えます。この表現は、田舎で休息する羊飼いのイメージを想起させます。

前景の写実的な描写とは対照的に、背景には夢の中でヤコブが見る梯子が描かれています。天使が昇降する梯子は、ヤコブの頭上から差し込む柔らかな光に溶け込むように描かれ、画面の3分の2以上を占める青空へと続いています。この構図は、リベーラの繊細な色彩感覚と、前景のヤコブや木を斜めに配置する構図の巧みさを際立たせています。

作品の評価

この作品は、同じくプラド美術館に所蔵されている『聖ペテロの解放』と対をなす作品とされています。しかし、それまでのリベーラの作品とは異なる穏やかな雰囲気と豊かな色彩から、1748年にエリザベッタ・ファルネーゼのコレクションに記録された際には、バルトロメ・エステバン・ムリーリョの作品であると考えられていました。これは、リベーラの作風の幅広さを示す逸話と言えるでしょう。

まとめ

リベーラの「ヤコブの夢」は、聖書の物語を題材にしながらも、バロック的な劇性を抑え、写実的な表現と繊細な色彩で見る者を魅了します。リベーラの卓越した画力と、聖書に対する深い理解が融合した傑作と言えるでしょう。

参考文献

プラド美術館ガイドブック、プラド美術館、2009年刊行 ISBN 978-84-8480-189-4
大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年。ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク

プラド美術館公式サイト、ホセ・デ・リベーラ『ヤコブの夢』 (英語)
Jusepe de Ribera, 1591-1652 , Issued in connection with an exhibition held Sept. 18-Nov. 29, 1992, Metropolitan Museum of Art, New York (see pages: 135–137).

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