ヤコポーネ・ダ・トーディ

ヤコポーネ・ダ・トーディ（伊：Ja'copone da Todi、ラテン語：Jacobus de Benedictis、1230年 - 1306年12月25日）は、13世紀後半から14世紀初頭にかけて活動したイタリアの宗教詩人です。ウンブリア地方の古都トーディの由緒ある家柄に生まれた彼は、ボローニャ大学で法学を修めた後、故郷で公証人として活動していたと考えられています。

生涯

伝承によれば、1266年頃に最愛の妻が事故で命を落とした出来事が、ヤコポーネの人生を大きく変える転機となりました。この悲劇を機に、彼は俗世を離れ、「ディシプリナーティ」と呼ばれる宗教結社に入り、厳格な苦行と清貧の実践に身を投じました。約10年間の苦行生活を経て、ヤコポーネはフランシスコ会の修道士となります。しかし、会の中でも貧困と霊性を極端に追求する急進派「精神派」に程なく加わり、当時の教会の世俗化に対する批判的な姿勢を強め、政治的な運動にも深く関与していきます。

彼は、時の教皇であるケレスティヌス5世とその後を継いだボニファティウス8世を鋭く批判し、諷刺する詩「サティロ（Satiro）」を発表しました。これが教会当局の怒りを買い、1298年には破門され、獄につながれることとなります。彼は教皇ボニファティウス8世が死去する1303年まで、およそ5年間にわたり投獄されました。釈放後は、トーディに近いコラッツォーネで静かに余生を過ごし、その地で没しました。

修道士としての務めの傍ら、ヤコポーネは多くの叙情詩を創作し、後世に残る聖歌の詞を手がけました。特に、イエス・キリストの十字架の下で嘆き悲しむ聖母マリアを描いたラテン語の「悲しみの聖母（Stabat mater）」は、彼の代表作として非常に有名です。

作品と評価

ヤコポーネの創作活動の中心となったのは、イタリア語で書かれた100篇を超える「讃歌（Laude）」です。これらの作品は、中世後期のイタリアにおける宗教的な情熱や社会批判の精神を色濃く反映しています。

彼の作品に対する評価は、時代によって変遷してきました。19世紀のロマン主義の時代には、その激しい神への愛や情熱的な表現から、「神に酔いしれた狂気の詩人」として描かれることが多かったようです。しかし、20世紀に入ると、より学術的かつ客観的な視点からの研究が進み、ダンテ以前のイタリア文学における優れた神秘詩人としての地位が確立されました。

イタリアの著名な文芸評論家であるフランチェスコ・デ・サンクティスは、ヤコポーネの芸術的な洗練度よりも、民衆の話し言葉を巧みに取り入れた素朴で力強い作風を高く評価しました。デ・サンクティスは、その作品に民衆の純粋で素朴な詩情が表れていると見なしました。

代表作である「スターバト・マーテル」は、カトリック教会で歌われる聖歌の詞として、アヴェ・マリス・ステラやサルヴェ・レジーナといった著名な聖歌と並び称される傑作として、今日でも広く知られています。ヤコポーネ・ダ・トーディは、その波乱に富んだ生涯と、独自の霊性と表現力に満ちた作品群によって、イタリア文学史、特に宗教文学において重要な足跡を残しました。

もう一度検索