ヤズデギルド3世

ヤズデギルド3世：サーサーン朝最後の王、その生涯と帝国の終焉

ヤズデギルド3世（生年不詳 - 651年）は、サーサーン朝ペルシア帝国の第38代にして最後の王（在位：632年 - 651年）です。彼は、かつての栄光を誇った帝国の黄昏時を象徴する人物であり、その治世は内憂外患に満ちたものでした。

生い立ちと即位

ヤズデギルド3世は、第24代君主ホスロー2世の孫にあたり、父はシャフリヤールでした。彼が王位を継承した当時のサーサーン朝は、長年の内乱に加え、相次ぐ洪水などの天災に見舞われ、国家は疲弊の色を濃くしていました。そのような状況下で、彼は帝国の再建という重責を担うことになったのです。

イスラム勢力の勃興と帝国の危機

ヤズデギルド3世の治世において、最も深刻な脅威となったのは、アラビア半島で勃興したイスラム勢力の拡大でした。正統カリフの軍勢は瞬く間にメソポタミアを席巻し、サーサーン朝の領土を侵食していきました。彼は宿将ロスタム・ファッロフザードを最高司令官に任命し、ムスリム軍との決戦に臨みます。

636年、イラクの地でカーディシーヤの戦いが勃発。サーサーン朝軍は奮戦したものの、イスラム軍の勢いを止めることができず、大敗を喫しました。ロスタム・ファッロフザードも戦死し、帝都クテシフォンはムスリム軍によって包囲され、ついに陥落してしまいます。ヤズデギルド3世はクテシフォンの奪還を目指し軍を組織しますが、642年のニハーヴァンドの戦いで再び大敗を喫し、サーサーン朝の国勢は著しく傾きました。

逃亡と最期、そして帝国の滅亡

ニハーヴァンドの戦い以降、イスラム勢力はサーサーン朝の領土を蚕食し続けました。ヤズデギルド3世は首都を放棄し、東方のケルマーンなどへ逃亡を余儀なくされます。651年には、ホラーサーン地方のメルヴへと逃れましたが、そこで総督の裏切りに遭い、暗殺されてしまいました。彼の死によって、サーサーン朝ペルシア帝国は220年の歴史に幕を閉じたのです。

帝国の残影

ヤズデギルド3世の息子であるペーローズ3世をはじめとする皇族たちは、パミール高原を越えて唐へと亡命し、サーサーン朝の復興を目指して抵抗を続けました。しかし、その願いが叶うことはなく、サーサーン朝は歴史の表舞台から姿を消しました。ヤズデギルド3世の生涯は、栄華を誇った古代帝国の終焉を象徴する悲劇的な物語として、後世に語り継がれています。

もう一度検索