カーディシーヤの戦い

カーディシーヤの戦い：イスラム勢力によるペルシア征服の幕開け

カーディシーヤの戦いは、636年に現在のイラク、ナジャフ市の東に位置するカーディシーヤで、正統カリフ時代のイスラム勢力とサーサーン朝ペルシアの間で行われた重要な戦いです。この戦いは、イスラム勢力によるイラク掌握、そしてその後のペルシア征服へと繋がる大きな転換点となりました。ニハーヴァンドの戦い（641年）でサーサーン朝が敗北し、滅亡へと向かうきっかけともなりました。

戦いの背景

東ローマ帝国とサーサーン朝の関係

預言者ムハンマドの時代、ペルシアはサーサーン朝の皇帝ホスロー2世の統治下にありました。ホスロー2世は、東ローマ皇帝マウリキウスが軍の反乱で殺害された際、仇討ちを名目に東ローマ・サーサーン戦争（602年 - 628年）を引き起こしました。サーサーン朝軍はシリア、エジプト、アナトリアを占領し、キリスト教の聖遺物である聖十字架を奪いました。その後、東ローマ皇帝ヘラクレイオスが失地回復を図り、ニネヴェの戦い（627年）でサーサーン朝軍を破り、首都クテシフォン近郊まで進軍すると、ホスロー2世は息子のカワード2世の反乱によって処刑されました。カワード2世は東ローマ帝国と和平を結び、占領地を返還しました。

サーサーン朝の内紛

ホスロー2世の死後、サーサーン朝では内紛が勃発し、短期間に多くの皇帝が交代しました。ヤズデギルド3世が8歳で即位するも、実権はロスタムら重臣が握り、権力闘争が続きました。この内紛が、サーサーン朝の国力を大きく削ぐことになりました。

正統カリフ勢力の勃興とイラク侵攻

預言者ムハンマドの死後、アブー・バクルはリッダ戦争を通じてアラビア半島に支配権を確立し、シリアやパレスチナへの軍事行動を開始しました。アブー・バクルの下で勇将ハーリド・イブン・アル＝ワリード率いるアラブ軍はイラクに侵攻し、633年にはアル・ヒラを陥落させ、ユーフラテス川流域の諸都市を制圧しました。その後、ハーリドはシリア戦線へ転戦しますが、ムスリム軍はメディナからの増援を得て、サーサーン朝軍をクーファ近郊で破りました。しかし、サーサーン朝軍の反撃によりユーフラテス河畔で大敗を喫し、イラクから撤退を余儀なくされました。

戦闘の推移

開戦前

ウマルはサードに命じ、ヤズデギルド3世とロスタムに使者を送り、イスラムへの改宗、またはジズヤ（人頭税）の支払いを求めました。交渉は決裂し、ロスタムはカーディシーヤへ進軍しました。

開戦

636年11月16日、両軍はカーディシーヤで対峙しました。サーサーン朝軍は戦象を投入し、ムスリム軍を苦しめましたが、ムスリム軍は弓兵による狙撃や歩兵による象の鞍の腹帯を切るなどの戦術で対抗しました。初日は決着がつかず、「混乱の一日」として記録されています。

2日目以降、シリアからの援軍が到着し、ムスリム軍は士気を高めました。ロスタムは総攻撃をかけますが、ムスリム軍の奮戦により決着はつきません。3日目の夜には「騒音が轟く夜」と呼ばれる激戦が繰り広げられました。

4日目、ムスリム軍のカカ・イブン・アムルがサーサーン朝軍に突撃し、敵本陣を混乱させました。砂嵐の中、ロスタムが戦死したことが判明し、サーサーン朝軍は戦意を喪失、総崩れとなりました。

戦後と影響

カーディシーヤの戦いは、ムスリム軍の勝利に終わりました。この戦いでアラブ人は莫大な戦利品を手に入れました。敗戦はサーサーン朝のイラク支配を根底から揺るがし、クテシフォンの陥落へと繋がりました。その後も、サーサーン朝は失地回復を図りましたが、641年のニハーヴァンドの戦いで敗北し、651年には最後の皇帝ヤズデギルド3世が暗殺され、サーサーン朝は滅亡しました。

カーディシーヤの戦いは、イスラム勢力によるペルシア征服の幕開けを告げる、歴史的な戦いでした。

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