ヤマアラシ亜目

ヤマアラシ亜目：多様なげっ歯類の世界

ヤマアラシ亜目は、齧歯目に属する動物群の1つです。その名前から連想されるヤマアラシ以外にも、世界最大の齧歯類であるカピバラや、ペットとして親しまれるモルモット、チンチラなどもこの亜目の中に含まれます。多様な種を含み、形態や生態も実に様々です。

分類の変遷

かつて、齧歯目の分類は、ヤマアラシ亜目、ネズミ亜目、リス亜目の3亜目、あるいはリス顎亜目とヤマアラシ顎亜目の2亜目に大別されることもありました。特にヤマアラシ亜目とヤマアラシ顎亜目はほぼ同一のグループを示していました。

しかし、近年の分子系統解析などの研究により、グンディ科がヤマアラシ類と近縁であることが明らかになりました。この発見を踏まえ、現在の主流となっている分類では、ヤマアラシ亜目をヤマアラシ下目とグンディ下目に分ける体系が採用されています。ヤマアラシ下目は、かつてのヤマアラシ顎亜目に相当します。

現在の分類体系

ここでは、Burgin et al. (2020) を中心に、川田ら (2018) 、遠藤・佐々木 (2001) 、谷戸ら (2022) などの研究成果を参考に、現生科の分類を解説します。

グンディ形下目 (Ctenodactylomorphi)
グンディ科 (Ctenodactylidae): アフリカに生息するグンディ類が含まれます。
Diatomyidae: 絶滅危惧種であるラオニア・エニグマムスのみを含む科です。

ヤマアラシ顎下目 (Hystricognathi)
incertae sedis (所属不明): 分類が確定していない種が含まれます。
ヤマアラシ科 (Hystricidae): ヤマアラシ類が含まれます。特徴的な棘が有名です。
ヨシネズミ科 (Thryonomyidae): ヨシネズミなど、アフリカに生息する水辺を好む種が含まれます。
アフリカイワネズミ科 (Petromuridae): 南アフリカに生息する岩場に適応した種が含まれます。
Heterocephalidae: ハダカデバネズミのみからなる科で、デバネズミ科から分割されました。
デバネズミ科 (Bathyergidae): アフリカに生息する、モグラのような地下生活に適応した種が含まれます。

アメリカヤマアラシ上科 (Erethizontoidea)
アメリカヤマアラシ科 (Erethizontidae): 北アメリカと南アメリカに生息するアメリカヤマアラシ類が含まれます。

テンジクネズミ上科 (Cavioidea)
パカ科 (Cuniculidae): パカなど、南アメリカに生息する大型の種が含まれます。
テンジクネズミ科 (Caviidae): テンジクネズミなど、南アメリカに生息する種が含まれます。
アグーチ科 (Dasyproctidae): アグーチとアクシが含まれます。

チンチラ上科 (Chinchilloidea)
チンチラ科 (Chinchillidae): チンチラやビスカーチャが含まれます。
パカラナ科 (Dinomyidae): パカラナのみを含む科です。

デグー上科 (Octodontoidea)
チンチラネズミ科 (Abrocomidae): チンチラネズミが含まれます。
ツコツコ科 (Ctenomyidae): ツコツコが含まれます。
デグー科 (Octodontidae): デグーやチリアナネズミなどが含まれます。

ヌートリア科 (Echimyidae)
ヌートリアなど（ヌートリア科、フチア科、アメリカトゲネズミ科を統合）: 従来は別々の科に分類されていたヌートリア、フチア、アメリカトゲネズミなどが統合された科です。

まとめ

ヤマアラシ亜目は、カピバラのような大型種から、ハダカデバネズミのような小型種まで、多様な種を含む魅力的なグループです。それぞれの科に特有の形態や生態が進化しており、今後の研究によってさらに詳細な分類体系が構築されていくことが期待されます。 また、近年の研究では、分子系統学的手法を用いて、従来の形態に基づく分類体系の見直しが行われ、新たな知見が得られています。特に、グンディ科のヤマアラシ類との近縁性や、ヌートリア科の統合などは、この亜目の分類体系を理解する上で重要な要素となっています。絶滅危惧種なども含まれており、保全の観点からも注目すべきグループと言えるでしょう。

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