ヤマガラ

ヤマガラ：日本の森に生きる小さな鳥

ヤマガラ（学名： Sittiparus varius）は、スズメ目シジュウカラ科に属する小型の鳥類です。日本列島全域を含む東アジアに広く分布し、人里近くの山林から標高の高い山地まで、様々な環境に適応して生息しています。

多様な亜種と外見

ヤマガラは、複数の亜種に分類され、地域によって体色や模様に微妙な違いが見られます。全長は13～15cm、スズメ程度の大きさで、黒く小さな頭部と、白い頬の斑点が特徴的です。背や腹部の色は亜種によって橙褐色から灰褐色まで変化に富み、ナミエヤマガラ、オリイヤマガラ、オーストンヤマガラなどは、それぞれ独特の体色を持っています。

ナミエヤマガラ(P. v. namiyei): 神津島、新島、利島に生息する固有亜種。背中と腹は橙褐色で、頬の斑点は淡黄色です。
*オリイヤマガラ(P. v. olivaceus): 西表島に生息する固有亜種。頬の斑点は赤褐色で、背は灰褐色、腹は赤褐色です。
*オーストンヤマガラ(P. v. owstoni): 八丈島、御蔵島、三宅島に生息する固有亜種。ヤマガラの中でも最大で、腹は赤褐色、頬の斑点は細く赤褐色です。
*ヤマガラ(P. v. varius): 北海道から九州まで広く分布する基亜種。背中と腹は橙褐色で、頬の斑点は黄褐色です。

これらの亜種以外にも、台湾に生息するタイワンヤマガラ(P. v. castaneoventris)なども知られています。

生態と食性

ヤマガラは、標高1500メートル以下の常緑広葉樹林や落葉広葉樹林を主な生息地としています。山地から平地まで幅広く見られ、冬には標高の高い場所の個体が低地へ移動することもあります。

食性は雑食性で、昆虫やクモなどの動物性食物と、果実やエゴノキの実などの植物性食物を両方食べます。堅い果実は、後肢で挟んで嘴で割って食べ、余った食べ物は樹皮の隙間などに蓄える貯食行動も見られます。夏は動物質、冬は植物質を多く摂取する傾向があります。

繁殖と保全

繁殖期は3～6月で、樹洞にコケや獣毛などを用いた皿状の巣を作り、3～8個の卵を産みます。メスが抱卵し、約2週間で孵化、その後約20日で巣立ちます。

国際自然保護連合（IUCN）では軽度懸念（LC）に指定されていますが、生息地の減少により個体数の減少が懸念されています。特に、いくつかの亜種は絶滅危惧種に指定されており、ナミエヤマガラやオーストンヤマガラなどは、その保全が重要な課題となっています。かつて存在したダイトウヤマガラ(P. v. orii*)は、絶滅したと考えられています。

人との関わり

日本では古くからヤマガラは飼育され、その高い学習能力を生かして芸を仕込まれてきました。平安時代には飼育の記録があり、江戸時代にはおみくじを引かせる芸などが盛んに披露されていました。神社などで見られたこの芸は、戦後さらに発展しましたが、鳥獣保護法の施行や自然保護運動の高まりにより、1990年頃には完全に姿を消しました。ヤマガラを芸を仕込むために飼育するという歴史は、世界的に見ても非常に珍しい事例と言えるでしょう。おみくじ以外にも、つるべ上げ、鐘つき、かるた取りなどの芸が知られています。現在、いくつかの市町村でヤマガラを市の鳥、町の鳥などに指定しています。

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