ヤマドリゼンマイ

ヤマドリゼンマイ (山鳥薇) について

ヤマドリゼンマイ（Osmundastrum cinnamomeum var. fokeiense）は、ゼンマイ科に属するシダ植物で、湿地に自生する大型の植物です。これまではゼンマイと同じ属に分類されていましたが、現在では本種は独立した属に分類され、唯一の種として位置づけられています。

名称の由来

ヤマドリゼンマイの名称は、山鳥が生息しているような場所に生育することが由来です。また、別名として「ヤマドリシダ」もよく知られています。学名の「cinnamomeum」は肉桂に似た外観を示し、変種名の「fokeiense」は中国福建省に由来しています。

分布と生育環境

日本国内では北海道から九州、さらに屋久島まで広がり、国外では朝鮮、中国、台湾、インドシナ半島、インド、さらには南北アメリカにまで分布しています。特に寒冷地の湿地に生息し、時に群生する様子が見られます。例として、和歌山県の新宮市にある浮島の森では、厳しい気候条件にもかかわらず本種が発見されており、これが学術的に重要視される理由の一つとなっています。

形態と生態

ヤマドリゼンマイは、比較的大型の多年生草本で、夏緑性の特性を持ちます。根茎は短く横に広がり、5〜8cmに及ぶ径を持ち、多数の葉が互いに接するように生えます。若芽は赤褐色の綿毛で覆われていますが、成長とともに失われます。

葉には春に出る栄養葉と胞子葉があり、栄養葉は卵状披針形で、長さは30〜80cm、幅は15〜25cmほどです。一方、胞子葉は栄養葉よりも背が低く、赤褐色を帯びており、胞子を散布した後は枯れます。栄養葉と胞子葉の構造には明確な二形性が見られ、これが本種の特徴となっています。

分類と進化

ヤマドリゼンマイは、かつてゼンマイ属に含まれていましたが、系統解析の進歩により、その独特の形態から別属とされることが確認されました。これにより、オニゼンマイなどの従来の近縁種との類似性は誤解であったことが明らかになりました。

利用法

食用として新葉が利用され、若い栄養葉は煮付けや天ぷら、和え物など多様な料理に使われます。採取時期は地域によって異なり、関東以西では4月ごろ、中部地方は4〜5月ごろ、東北地方以北は5月ごろが主な時期です。

保護状況

ヤマドリゼンマイは、環境省のレッドデータブックには記載されていませんが、いくつかの都道府県では保護種として指定されています。湿地環境が消失する影響を受けるため、注意が必要です。

ヤマドリゼンマイは独特な生態と形態を持ちながら、利用され続ける植物として日々の生活に彩りを添えています。

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