ヤンガードリアス

ヤンガードリアス期：1万年前の急激な寒冷化

ヤンガードリアス期（Younger Dryas）とは、最終氷期末期の約1万2900年前から1万1500年前にかけて、北半球高緯度地域で発生した急激な寒冷化現象です。この期間は、それまでの温暖化傾向が逆転し、再び氷河期のような厳しい気候が訪れたことで知られています。英語名は、アルプスやツンドラに生育するチョウノスケソウ（Dryas octopetala）に由来します。地域によっては、Nahanagan Stadial（アイルランド）、Loch Lomond Stadial（イギリス）など、異なる名称で呼ばれることもあります。

ヤンガードリアス期の気候変動

ヤンガードリアス期は、最終氷期後の温暖なベーリング・アレレード期に続く、約1300年間の寒冷期でした。グリーンランドの氷床コアのデータから、この期間のグリーンランド山頂部の気温は現在よりも約15℃も低かったことが分かっています。イギリスでは、昆虫化石の分析から、年平均気温が約-5℃にまで低下し、氷河が低地まで拡大していたことが示唆されています。

この寒冷化は、数十年の間に急速に進行したと推定されています。これほど短期間で、これほど大規模な気候変動が起きたことは、それ以降には例がありません。その影響はヨーロッパに特に顕著でしたが、世界各地で同様の現象が確認されており、スカンジナビアでは森林がツンドラに置き換わり、世界各地の山岳地帯では氷河作用が拡大しました。また、アジアからの砂漠の塵の増加や、レバント地方の干ばつ、南半球のHuelmo/Mascardi Cold Reversalなども、ヤンガードリアス期と関連付けられています。ただし、南半球の寒冷化は規模が小さく、ヤンガードリアス期の寒冷化との関連性については議論が続いています。

ヤンガードリアス期の原因

ヤンガードリアス期の原因については、現在も複数の説が提唱されています。有力な説の一つは、巨大隕石や彗星の衝突です。北米大陸での衝突を示唆する証拠として、約1万3000年前の地層から極小のダイヤモンドなどが発見されています。しかし、この説は依然として議論の余地があり、決着はついていません。

もう一つの有力な説は、北大西洋における熱塩循環の弱体化です。最終氷期末期の温暖化により、メキシコ湾流が北上し、ヨーロッパに暖流をもたらしていました。しかし、北アメリカ大陸の巨大なアガシー湖からの大量の淡水が北大西洋に流れ込むことで、海水密度が変化し、メキシコ湾流の北上を阻害したと推測されています。これにより、ヨーロッパは再び寒冷化し、世界的な影響を及ぼしたとされています。

しかし、この説だけでは、南半球の先行する寒冷化を説明することができません。現在では、彗星衝突説と熱塩循環説の両方が、あるいは同時に、ヤンガードリアス期の寒冷化を引き起こした可能性が考えられています。

ヤンガードリアス期の終了と農耕の開始

氷床コアの分析によると、ヤンガードリアス期の終了は、40～50年の間に数段階を経て、非常に急速に進行しました。わずか数年で7℃もの気温上昇があったと推定されています。この急激な温暖化の理由は、未だ解明されていません。

ヤンガードリアス期は、西アジアにおける農耕の開始と関連付けられることもあります。寒冷化と乾燥化によって、遊牧生活が困難になった前期ナトゥーフ文化の人々が、食糧生産を始めるようになったという説です。一方で、ヤンガードリアス期の終了が農耕開始のきっかけになったとする説もあり、議論は続いています。

まとめ

ヤンガードリアス期は、地球気候史における重要なイベントであり、その原因や影響については未だ多くの謎が残されています。今後の研究によって、より詳細な理解が進むことが期待されます。この期間の気候変動の解明は、現代の地球温暖化問題を考える上でも重要な示唆を与えてくれるでしょう。 特に、地球システムにおける急激な変化の可能性と、その影響について、改めて考える必要があるでしょう。

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