ヤン＝ガン＝イ＝タン

ブルターニュ地方の悪魔、ヤン＝ガン＝イ＝タン

フランス、ブルターニュ地方の伝承に現れる悪魔、ヤン＝ガン＝イ＝タン (Yan-gant-y-tan)をご存知でしょうか？その異様な姿と、不吉な前兆としての存在は、古くから地元の人々に語り継がれてきました。本稿では、この謎めいた存在について、詳細に解説します。

語源と解釈

コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』では、ヤン＝ガン＝イ＝タンの名を「夜のさすらい人」と解釈しています。ブルトン語の語源を辿ると、「火を携えたJohn」を意味する言葉と共通の語根を持つと考えられています。これは、ウィル・オ・ウィスプ（人魂）の亜種と捉えることもできるでしょう。いずれにしても、ヤン＝ガン＝イ＝タンの出現は、決して良い出来事の前兆ではないとされています。

民間伝承におけるヤン＝ガン＝イ＝タン

フィニステール地方の夜に現れるヤン＝ガン＝イ＝タンは、独特の姿をしています。老いて痩せ細ったトロール、あるいは毛深い野人として描かれることが多いようです。しかし、彼を他の類似した存在と区別する決定的な特徴があります。それは、右手に掲げられた五本の蝋燭です。

ヤン＝ガン＝イ＝タンは、この五本の蝋燭を燃え上がる車輪のように回転させながら彷徨い歩きます。この右手は、「栄光の手」とも呼ばれることがあるようです。しかし、この炎を消さないように注意深く、素早く方向転換を行う必要があるため、彼は常に急いでいるように見えます。

人々は、ヤン＝ガン＝イ＝タンの不吉な訪れを防ぐ方法を模索してきました。その一つが、旅人の標柱の周りに小さな金貨の袋や金の鎖を置いておくことです。ヤン＝ガン＝イ＝タンはこれらの金品に気を取られ、少なくともその日は二度と現れることはないと言われています。まるで、彼の行動が金銭に左右されているかのような、不思議な伝承です。

興味深いことに、不吉な存在である一方で、ヤン＝ガン＝イ＝タンが助けの手を差し伸べる話も伝わっています。蝋燭を持たずに暗闇をさまよう人に、自分の蝋燭を分け与え、旅の道を照らしたというのです。この物語は、彼の本質が必ずしも悪意だけから成るものではないことを示唆しているのかもしれません。

まとめ

ヤン＝ガン＝イ＝タンは、ブルターニュ地方の伝承に息づく、魅力的で謎めいた存在です。五本の蝋燭を燃やし、不吉の前兆とされる一方で、助けの手を差し伸べることもあるという、相反する側面を持つ存在として、人々の記憶に深く刻まれています。その姿や行動、そして語源にまつわる様々な解釈は、豊かな想像力を掻き立て、民話研究において重要な題材となっています。彼の正体、そして伝承の真意は、現代においてもなお、解き明かされることを待っていると言えるでしょう。

参考文献

* Dictionnaire ... des pèlerinages anciens et modernes, par L. de Sivry (Google ブックスでフランス語版を確認できます)

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