ユウスイミミズハゼ

ユウスイミミズハゼ（湧水蚯蚓鯊）

ユウスイミミズハゼ（Luciogobius fonticola）は、日本固有のミミズハゼ属に分類されるハゼの一種です。

分布

ユウスイミミズハゼは、静岡県の安倍川・大井川、三重県の銚子川、和歌山県の古座川といった、ごく限られた地域でのみ生息が確認されています。これらの地域は、河川の下流域にあたり、湧水や伏流水が湧き出る平瀬や淵の砂底、砂礫底といった環境が特徴です。清冽な水が湧き出る場所を好むことが、和名の由来となっています。

形態

本種は、ミミズハゼ属の中では比較的小型です。体は細長く、頭部は小さく縦扁しています。他のミミズハゼ属の魚類と比較して、背鰭、臀鰭、腹鰭が退化しておらず、腹鰭は左右が癒合して吸盤状になっています。また、肛門の位置が臀鰭の基部の直前にある点も特徴です。眼は退化しており、皮膚の下に埋没しています。背鰭は1棘8軟条、臀鰭は1棘7-9軟条、腹鰭は1棘5軟条で構成されています。背鰭の起点は臀鰭の起点よりも前方に位置します。

生態

ユウスイミミズハゼの生態については、詳しい研究がほとんど行われていません。食性、繁殖行動、繁殖期など、基本的な情報でさえ不明な点が多く残されています。しかし、2019年の平嶋健太郎氏らの調査では、4月に成熟した卵巣を持つ個体が複数確認されており、この時期が繁殖期にあたる可能性が示唆されています。また、渋川浩一氏らの2018年の研究では、本種は両側回遊型の生活史を送るのではないかという推測がなされています。

保全状況

ユウスイミミズハゼは、生息地の破壊、改変、濁水、転圧など、河川工事による影響が深刻化しており、その存続が脅かされています。生息が確認される以前に河川改修や護岸工事が行われ、貴重な生息場所が失われたと考えられる事例も少なくありません。そのため、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧（NT）に指定されています。また、静岡県レッドリストでは、さらに深刻な絶滅危惧IA類に指定されています。

このような状況を受け、安倍川・大井川を管理する国土交通省静岡河川事務所は、「安倍川・大井川希少魚類保全対策連絡会」を組織し、地域の研究者と連携しながら保全対策に取り組んでいます。河川工事においては、ユウスイミミズハゼの生息地を可能な限り回避したり、工事排水の濁度や水素イオン濃度指数（pH）の基準値を設けて管理するなど、生息環境への負荷を低減するための配慮が行われています。しかし、生息地における細粒土砂の堆積や、地下水の汲み上げによる湧水の減少など、依然として生息環境の悪化が懸念されています。継続的な調査と、より効果的な保全対策が求められています。

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